【完結】前世で教祖(ペテン師)してましたが、転生後「聖女」になって崇められてます

藤原遊

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第15話:偽物でも、誰かのために立っていいですか?

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審問の日が近づくにつれ、教会の空気は、
まるで湿った布団みたいに、重くなっていった。

 

祭壇の花はいつもより明らかに少なくて、
信徒たちの足音はやたらと静か。笑顔は、ほぼ絶滅危惧種。

口に出す者はいないけど、誰もが“その日”を見て見ぬふりしてた。

 

祈祷が終わった帰り道、クラリスがぽつりと口を開いた。

「……マリア様、本当に……行かれるんですか?」

 

その声は、いつもの熱量入りの信仰ボイスじゃなかった。

どちらかといえば、“友達がやばいオーディションに出る時の親心”っぽいやつ。

 

「うん、行くよ。逃げたら、“私の言葉、ぜんぶ嘘でした~”って言うのと同じになるし」

 

クラリスはそれっきり、黙った。

かわりに、私が彼女の頭をくしゃっと撫でる。

 

「ねえ、クラリス。もしさ――もし私が、“本当は偽物でした”ってわかったら、それでもついてきてくれる?」

 

彼女は目を見開いた。
ちょっと考えて、口をぎゅっと結んで、でも結局――

 

「……はい。だって、私が救われたのは、マリア様の言葉ですから。
神様が許可したかどうかなんて、正直どうでもいいです」

 

……この子、やっぱりやばい信仰力だな。

いや、信仰というか、執着というか、信念というか。
でもまあ、ありがたい。

 

夜。書庫で資料を探してたら、ライオネルが現れた。

ちゃんとノックしてから入ってくるあたり、彼も成長したものだ(失礼)。

 

「審問には、信徒からも何人か証人が呼ばれるらしい。
……俺も、その中に入ることになるだろう」

 

「……大丈夫? “聖女擁護派”って思われたら、面倒なことになるかもよ」

 

「構わん。お前の言葉が誰かを救った。それは事実だ。
俺が証言するのは、ただの記録だ。……それだけのことだ」

 

あいかわらず、冷静。たぶん、心臓が石でできてるタイプ。

でもその目だけ、少し揺れてた。

それはたぶん、“護衛”の目じゃない。
“仲間”の目。……いや、そういうのは、ちょっと気恥ずかしいけど。

 

「……私さ、怖くはないんだよ。
でも、やっぱり不安ではある。なんていうか、
今さら“すみません、聖女じゃなかったです”って言っても、
救われた人がいた事実が、軽くなる気がして」

 

ライオネルは少し笑って、それからこう言った。

 

「偽物でも、誰かを救えるなら――それはもう、“本物”だろう」

 

その言い方があまりに真っすぐで、
私は少しだけ黙って、それから笑った。

 

……そっか。私、別に“本物”になりたいわけじゃないんだった。

ただ、“誰かの前に立っていた”と言える自分でいたいだけだ。

 

 

その夜、日記にこう書いた。

 

「明日、私は“聖女”であるかを問われる。
でも本当は、“誰かの隣に立っていられるか”を問われてる気がする。
私はそれに、うなずけるように――静かに、嘘をつきたいと思う」

 

 

そして、朝。

教会の鐘の音が、重たく響く中――

私はローブを羽織り、一段ずつ、ゆっくりと石段を登っていった。

 

“聖女”として。

それとも――ただの、誰かの隣に立っている者として。
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