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第16話:その祈りは、誰のためのものですか?
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広間の中央に、私ひとりが座らされた。
その四方を囲むように、教会幹部、司教たち、記録官、そして“審問官”と呼ばれる無表情な人々が並んでいた。
ああ、なんだろうこの感じ。
前世で悪徳団体の“代表”を演じていたときに、週刊誌に囲まれた感覚に似ている。
違うのは、あのときは嘘を突き通すプロだったということ。
……今の私は、ただの“居心地の悪い奇跡の発生源”である。
「マリア=フェルツィア殿。
貴殿は“奇跡を起こす存在”として神意を担っているとされる。
その振る舞いと言動について、いくつかの疑義がある。
本日はそれを明らかにし、信仰の正統性を確認する場である」
朗々と読み上げられる冒頭文。
堅い言葉、冷たい目。
でも私は、クラリスの姿を探した。
ライオネルの視線を受け取った。
そこに、“私の言葉を聞いてくれる誰か”がいる限り、逃げないと決めていた。
「まず、神の名を用いない祈祷について。
これは教義において明確に逸脱とされる。理由を説明せよ」
「……神の名前を知らなくても、祈ることはできるからです。
それが“誰かを救いたい”って気持ちなら、それは神様にも、届いてると私は思うから」
「思う、では困る。信仰は感情ではなく、教義に則るべきだ」
次に提示されたのは、“自由祈祷会”の記録。
「この集会では“神名を唱えずとも奇跡が起こる”という誤認が広まったとある。
これは明らかに、誤信を誘導している」
「違います。
私は“正しくない祈りでも、誰かの中に残れば意味がある”って信じただけです。
それを奇跡と呼ぶかどうかは、見た人の判断です」
「貴殿は自身を“聖女”と認めるのか?」
会場の空気が、そこで止まった。
沈黙のなか、私は一度だけ深呼吸をして、答えた。
「……私は、自分が“聖女”だと思ったことはありません。
でも、“聖女だと信じてくれた人がいる”ということは、信じています」
「それはつまり、虚偽の信仰に乗っているという自白か?」
私は、少しだけ笑った。
「違います。“嘘か本当か”は、祈る人が決めることです。
私はただ、“信じてもらえたこと”の重さから、逃げたくないだけなんです」
信徒たちの視線が、少しずつ強くなっていくのを感じた。
証人席に立った老人が、震える声で言った。
「わしは……この目で見たんじゃ。
マリア様の言葉で、息子が立ち上がった。
あれが神の奇跡じゃないなら……誰が神なんじゃ……?」
誰かがすすり泣いた。
誰かがうなずいた。
でも、司教たちの表情は動かない。
それは、信仰が“制度”に吸収されたときの、哀しい無表情だった。
それでも、私は最後に、言葉を置くことができた。
「……私が言葉をかけて、誰かが笑ったなら。
その笑顔が、誰かの救いになったなら。
それが“正しい祈り”じゃないとしても――
私は、その祈りを、誇りに思います」
誰のために祈るか。
どう祈るか。
それを決めるのは、私じゃない。
でも。
その場に、祈る人がいる限り――私は、立ち続けたい。
その四方を囲むように、教会幹部、司教たち、記録官、そして“審問官”と呼ばれる無表情な人々が並んでいた。
ああ、なんだろうこの感じ。
前世で悪徳団体の“代表”を演じていたときに、週刊誌に囲まれた感覚に似ている。
違うのは、あのときは嘘を突き通すプロだったということ。
……今の私は、ただの“居心地の悪い奇跡の発生源”である。
「マリア=フェルツィア殿。
貴殿は“奇跡を起こす存在”として神意を担っているとされる。
その振る舞いと言動について、いくつかの疑義がある。
本日はそれを明らかにし、信仰の正統性を確認する場である」
朗々と読み上げられる冒頭文。
堅い言葉、冷たい目。
でも私は、クラリスの姿を探した。
ライオネルの視線を受け取った。
そこに、“私の言葉を聞いてくれる誰か”がいる限り、逃げないと決めていた。
「まず、神の名を用いない祈祷について。
これは教義において明確に逸脱とされる。理由を説明せよ」
「……神の名前を知らなくても、祈ることはできるからです。
それが“誰かを救いたい”って気持ちなら、それは神様にも、届いてると私は思うから」
「思う、では困る。信仰は感情ではなく、教義に則るべきだ」
次に提示されたのは、“自由祈祷会”の記録。
「この集会では“神名を唱えずとも奇跡が起こる”という誤認が広まったとある。
これは明らかに、誤信を誘導している」
「違います。
私は“正しくない祈りでも、誰かの中に残れば意味がある”って信じただけです。
それを奇跡と呼ぶかどうかは、見た人の判断です」
「貴殿は自身を“聖女”と認めるのか?」
会場の空気が、そこで止まった。
沈黙のなか、私は一度だけ深呼吸をして、答えた。
「……私は、自分が“聖女”だと思ったことはありません。
でも、“聖女だと信じてくれた人がいる”ということは、信じています」
「それはつまり、虚偽の信仰に乗っているという自白か?」
私は、少しだけ笑った。
「違います。“嘘か本当か”は、祈る人が決めることです。
私はただ、“信じてもらえたこと”の重さから、逃げたくないだけなんです」
信徒たちの視線が、少しずつ強くなっていくのを感じた。
証人席に立った老人が、震える声で言った。
「わしは……この目で見たんじゃ。
マリア様の言葉で、息子が立ち上がった。
あれが神の奇跡じゃないなら……誰が神なんじゃ……?」
誰かがすすり泣いた。
誰かがうなずいた。
でも、司教たちの表情は動かない。
それは、信仰が“制度”に吸収されたときの、哀しい無表情だった。
それでも、私は最後に、言葉を置くことができた。
「……私が言葉をかけて、誰かが笑ったなら。
その笑顔が、誰かの救いになったなら。
それが“正しい祈り”じゃないとしても――
私は、その祈りを、誇りに思います」
誰のために祈るか。
どう祈るか。
それを決めるのは、私じゃない。
でも。
その場に、祈る人がいる限り――私は、立ち続けたい。
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