【完結】前世で教祖(ペテン師)してましたが、転生後「聖女」になって崇められてます

藤原遊

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第18話:異端と呼ばれる前に、話をしませんか?

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「また“マリア式”って言葉が出ましたよ。今度は港町ベルノの教会だそうです」

クラリスが、新聞の切り抜きを見せてくる。
見出しは大げさすぎて、もうギャグにしか見えなかった。

 

『新聖女運動、拡大中!? 奇跡の女神マリア様に人々が集う』
『祈らない聖女、語るだけの奇跡』
『神抜き信仰、正統教会への挑戦か』

 

「ねえクラリス、私いつから“女神”になったの?」

「最初の印象と“言い切った雰囲気”の勝利かと……!」

「それペテン師時代の成功要因と同じなんだけど……」

 

とはいえ、問題は笑えない。

“選ばない祈り”が広まるほど、“正しい祈り”の基準が揺らぐ。

神がいてもいなくても救われるなら、“神を通す必要はあるのか?”という疑問が広がる。

当然、教会としては見過ごせない。

 

……と思っていたら、案の定だった。

 

「マリア=フェルツィア殿ですね」

訪ねてきた男は、黒衣のロングコートに白銀のブローチをつけていた。

灰色の瞳。乾いた微笑。控えめな声色に、冷たい論理がにじんでいる。

 

「私は、中央監察局所属“異端監察官”のカイン・グラファルです。
この地に広がる新たな信仰形態について、教会の指示により調査と判断を行います」

 

ついに来たか、“論理で裁く者”。

私は応接室に通しながら、ライオネルに目配せをした。
彼は壁際に立ち、無言の警戒を続ける。

 

「異端っていうのは……正式に認定されるものなんですか?」

「ええ、“定義に適合しない信仰”を“害を伴って放置された場合”に、初めて宣告されます」

「じゃあ、“定義に適合しないけど、誰も困ってない場合”は?」

「……その場合、“異端”とは呼ばれません。“黙認”です」

 

……なるほど。

論理一本槍に見えて、意外とグレーゾーンの扱いも理解している。

 

「確認します。あなたの“自由祈祷会”において、神名を用いない祈りが主流になっている理由は?」

「それが一番、“神様以外の人にも届く気がするから”ですね。
名前って、使えば使うほど、“神様だけのもの”になってしまうでしょう?」

 

「その考え方は、信仰の“共通認識”から逸脱しています」

「だから、“共通”じゃなくて“個人”に寄せたんです」

 

カインはわずかに黙り、私の顔を見た。

その目に、“判断ではなく、興味”の光が見えた気がした。

 

「……奇跡が、あなたに起きる理由は、自己分析されていますか?」

「さあ? きっと誰かが“信じてるから”……とか?」

 

「それを“偶然の連鎖”と見る者も、“神の代理”と見る者もいます。
だが、あなたは“信じている人がいる限り嘘を突き通す”と言った……」

 

カインは立ち上がり、まっすぐこちらに言った。

 

「“異端”とは、信じすぎた人間が、“疑われなくなった瞬間”に起こるのです。
あなたの危うさは、そこにあります。……誤解される自由が、すでに奪われている」

 

 

そう言い残して、彼は部屋を去った。

 

その背中に、私はぽつりと呟いた。

 

「“信じる自由”は許されても、“疑う自由”は……戻らないのね」
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