19 / 41
第18話:異端と呼ばれる前に、話をしませんか?
しおりを挟む
「また“マリア式”って言葉が出ましたよ。今度は港町ベルノの教会だそうです」
クラリスが、新聞の切り抜きを見せてくる。
見出しは大げさすぎて、もうギャグにしか見えなかった。
『新聖女運動、拡大中!? 奇跡の女神マリア様に人々が集う』
『祈らない聖女、語るだけの奇跡』
『神抜き信仰、正統教会への挑戦か』
「ねえクラリス、私いつから“女神”になったの?」
「最初の印象と“言い切った雰囲気”の勝利かと……!」
「それペテン師時代の成功要因と同じなんだけど……」
とはいえ、問題は笑えない。
“選ばない祈り”が広まるほど、“正しい祈り”の基準が揺らぐ。
神がいてもいなくても救われるなら、“神を通す必要はあるのか?”という疑問が広がる。
当然、教会としては見過ごせない。
……と思っていたら、案の定だった。
「マリア=フェルツィア殿ですね」
訪ねてきた男は、黒衣のロングコートに白銀のブローチをつけていた。
灰色の瞳。乾いた微笑。控えめな声色に、冷たい論理がにじんでいる。
「私は、中央監察局所属“異端監察官”のカイン・グラファルです。
この地に広がる新たな信仰形態について、教会の指示により調査と判断を行います」
ついに来たか、“論理で裁く者”。
私は応接室に通しながら、ライオネルに目配せをした。
彼は壁際に立ち、無言の警戒を続ける。
「異端っていうのは……正式に認定されるものなんですか?」
「ええ、“定義に適合しない信仰”を“害を伴って放置された場合”に、初めて宣告されます」
「じゃあ、“定義に適合しないけど、誰も困ってない場合”は?」
「……その場合、“異端”とは呼ばれません。“黙認”です」
……なるほど。
論理一本槍に見えて、意外とグレーゾーンの扱いも理解している。
「確認します。あなたの“自由祈祷会”において、神名を用いない祈りが主流になっている理由は?」
「それが一番、“神様以外の人にも届く気がするから”ですね。
名前って、使えば使うほど、“神様だけのもの”になってしまうでしょう?」
「その考え方は、信仰の“共通認識”から逸脱しています」
「だから、“共通”じゃなくて“個人”に寄せたんです」
カインはわずかに黙り、私の顔を見た。
その目に、“判断ではなく、興味”の光が見えた気がした。
「……奇跡が、あなたに起きる理由は、自己分析されていますか?」
「さあ? きっと誰かが“信じてるから”……とか?」
「それを“偶然の連鎖”と見る者も、“神の代理”と見る者もいます。
だが、あなたは“信じている人がいる限り嘘を突き通す”と言った……」
カインは立ち上がり、まっすぐこちらに言った。
「“異端”とは、信じすぎた人間が、“疑われなくなった瞬間”に起こるのです。
あなたの危うさは、そこにあります。……誤解される自由が、すでに奪われている」
そう言い残して、彼は部屋を去った。
その背中に、私はぽつりと呟いた。
「“信じる自由”は許されても、“疑う自由”は……戻らないのね」
クラリスが、新聞の切り抜きを見せてくる。
見出しは大げさすぎて、もうギャグにしか見えなかった。
『新聖女運動、拡大中!? 奇跡の女神マリア様に人々が集う』
『祈らない聖女、語るだけの奇跡』
『神抜き信仰、正統教会への挑戦か』
「ねえクラリス、私いつから“女神”になったの?」
「最初の印象と“言い切った雰囲気”の勝利かと……!」
「それペテン師時代の成功要因と同じなんだけど……」
とはいえ、問題は笑えない。
“選ばない祈り”が広まるほど、“正しい祈り”の基準が揺らぐ。
神がいてもいなくても救われるなら、“神を通す必要はあるのか?”という疑問が広がる。
当然、教会としては見過ごせない。
……と思っていたら、案の定だった。
「マリア=フェルツィア殿ですね」
訪ねてきた男は、黒衣のロングコートに白銀のブローチをつけていた。
灰色の瞳。乾いた微笑。控えめな声色に、冷たい論理がにじんでいる。
「私は、中央監察局所属“異端監察官”のカイン・グラファルです。
この地に広がる新たな信仰形態について、教会の指示により調査と判断を行います」
ついに来たか、“論理で裁く者”。
私は応接室に通しながら、ライオネルに目配せをした。
彼は壁際に立ち、無言の警戒を続ける。
「異端っていうのは……正式に認定されるものなんですか?」
「ええ、“定義に適合しない信仰”を“害を伴って放置された場合”に、初めて宣告されます」
「じゃあ、“定義に適合しないけど、誰も困ってない場合”は?」
「……その場合、“異端”とは呼ばれません。“黙認”です」
……なるほど。
論理一本槍に見えて、意外とグレーゾーンの扱いも理解している。
「確認します。あなたの“自由祈祷会”において、神名を用いない祈りが主流になっている理由は?」
「それが一番、“神様以外の人にも届く気がするから”ですね。
名前って、使えば使うほど、“神様だけのもの”になってしまうでしょう?」
「その考え方は、信仰の“共通認識”から逸脱しています」
「だから、“共通”じゃなくて“個人”に寄せたんです」
カインはわずかに黙り、私の顔を見た。
その目に、“判断ではなく、興味”の光が見えた気がした。
「……奇跡が、あなたに起きる理由は、自己分析されていますか?」
「さあ? きっと誰かが“信じてるから”……とか?」
「それを“偶然の連鎖”と見る者も、“神の代理”と見る者もいます。
だが、あなたは“信じている人がいる限り嘘を突き通す”と言った……」
カインは立ち上がり、まっすぐこちらに言った。
「“異端”とは、信じすぎた人間が、“疑われなくなった瞬間”に起こるのです。
あなたの危うさは、そこにあります。……誤解される自由が、すでに奪われている」
そう言い残して、彼は部屋を去った。
その背中に、私はぽつりと呟いた。
「“信じる自由”は許されても、“疑う自由”は……戻らないのね」
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム
前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した
記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた
村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く
ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた
そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた
私は捨てられたので村をすてる
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
家族の肖像~父親だからって、家族になれるわけではないの!
みっちぇる。
ファンタジー
クランベール男爵家の令嬢リコリスは、実家の経営手腕を欲した国の思惑により、名門ながら困窮するベルデ伯爵家の跡取りキールと政略結婚をする。しかし、キールは外面こそ良いものの、実家が男爵家の支援を受けていることを「恥」と断じ、リコリスを軽んじて愛人と遊び歩く不実な男だった 。
リコリスが命がけで双子のユフィーナとジストを出産した際も、キールは朝帰りをする始末。絶望的な夫婦関係の中で、リコリスは「天使」のように愛らしい我が子たちこそが自分の真の家族であると決意し、育児に没頭する 。
子どもたちが生後六か月を迎え、健やかな成長を祈る「祈健会」が開かれることになった。リコリスは、キールから「男爵家との結婚を恥じている」と聞かされていた義両親の来訪に胃を痛めるが、実際に会ったベルデ伯爵夫妻は―?
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる