【完結】前世で教祖(ペテン師)してましたが、転生後「聖女」になって崇められてます

藤原遊

文字の大きさ
21 / 41

第20話:祈りを信じた代償は、遅れてやってくる

しおりを挟む
「中央報告書、第7項、“異端認定”――保留。
“信仰活動に関して異常な情熱は認めるが、害意や意図的逸脱は見られない”。
以上が、カイン監察官の最終報告です」

 

ライオネルが書状を読み上げると、クラリスが安堵と涙の混ざったような顔になった。

「よかった……! これで、“異端”じゃなくなったんですね!」

 

「いや、それは違うよ」

私の言葉に、クラリスは顔を上げる。

 

「“異端ではない”とは言われてない。“異端かどうか、まだ決めない”ってだけ。
保留っていうのは、むしろ、危うい立場に置き続けるってことでもあるの」

 

“否定されなかった”だけで、何も守られてない。

それが、“保留”という言葉の残酷さだった。

 

 

そして、それはすぐに現実になる。

その数日後、外部から新たな文書が届いた。

今度は、教会直轄区からの命令だった。

 

『特例聖女マリア=フェルツィアに関わる全ての祈祷・集会・言論活動は、今後“監視対象”とする』
『教会管轄外での説法・祈祷は禁止』
『違反のあった場合、正式な聖務停止処分を検討する』

 

……つまり。

“異端”とまでは言えないけど、
“放置はできない危険因子”として、縛る気らしい。

 

「こんな、勝手すぎます……!」

クラリスが机を叩いた。

「マリア様は、ただ人を助けてるだけなのに……!
誰も傷つけてないのに……!」

 

「“誰も傷つけてない”ことが、“証明できない”ってのが一番厄介なのよ」

私は小さく肩をすくめた。

 

「“正しくないやり方”で人を救うと、それは“正しさの価値”を壊すから。
だから、どんなに無害でも、“制度側から見れば有害”になる」

 

ライオネルは短く唸るように言った。

「カインは報告を“抑えた”のではなく、“繋いだ”のだろう。
だが、その隙間を狙って、教会内の別勢力が動き出した。
……次は、もっと直接的な干渉があるはずだ」

 

「暴力ですか?」

「もしくは、“公開糾弾”だ。
“信仰による混乱”という名目で、マリアを貶める証言を集める手段もある」

 

……わかってる。
こうなることは、最初から。

でも、思っていたよりも早く。
そしてずっと、じわじわと、くる。

 

「とりあえず今は、祈祷会の形式を“開かれた雑談”っぽく偽装しようか。
神様の話は出ないけど、“話すと元気になる会”とかにしとけば、たぶん監視も通過できるでしょ」

 

「……なんか昔の商売を思い出すなぁ」

私が思わずぽつりと呟くと、クラリスがきょとんとした顔でこちらを見た。

「マリア様、それ……どういう意味ですか?」

「ううん、気にしないで。前世の黒歴史がちょっと脳裏をかすめただけだから」

「黒歴史……ですか? でもマリア様なら、過去も今も全部、尊いです!」

「ありがとう。気持ちだけ受け取って、現実的にはいったん棚に上げとくね」

 

 

その夜。
教会の門前に、ひとりの旅人が現れた。

フードの奥から覗く顔は、若い――けれど、目だけが異様に疲れている。

 

「……“誰でも祈っていい”って、本当ですか?」

 

その声は、砂を噛むような弱さだった。

けれど、その背負った荷物は異様に重く、背中はずっと震えていた。

 

“新しい誰か”の物語が、ここで始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!

水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。 ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。 しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。 ★ファンタジー小説大賞エントリー中です。 ※完結しました!

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

留学してたら、愚昧がやらかした件。

庭にハニワ
ファンタジー
バカだアホだ、と思っちゃいたが、本当に愚かしい妹。老害と化した祖父母に甘やかし放題されて、聖女気取りで日々暮らしてるらしい。どうしてくれよう……。 R−15は基本です。

処理中です...