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第20話:祈りを信じた代償は、遅れてやってくる
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「中央報告書、第7項、“異端認定”――保留。
“信仰活動に関して異常な情熱は認めるが、害意や意図的逸脱は見られない”。
以上が、カイン監察官の最終報告です」
ライオネルが書状を読み上げると、クラリスが安堵と涙の混ざったような顔になった。
「よかった……! これで、“異端”じゃなくなったんですね!」
「いや、それは違うよ」
私の言葉に、クラリスは顔を上げる。
「“異端ではない”とは言われてない。“異端かどうか、まだ決めない”ってだけ。
保留っていうのは、むしろ、危うい立場に置き続けるってことでもあるの」
“否定されなかった”だけで、何も守られてない。
それが、“保留”という言葉の残酷さだった。
そして、それはすぐに現実になる。
その数日後、外部から新たな文書が届いた。
今度は、教会直轄区からの命令だった。
『特例聖女マリア=フェルツィアに関わる全ての祈祷・集会・言論活動は、今後“監視対象”とする』
『教会管轄外での説法・祈祷は禁止』
『違反のあった場合、正式な聖務停止処分を検討する』
……つまり。
“異端”とまでは言えないけど、
“放置はできない危険因子”として、縛る気らしい。
「こんな、勝手すぎます……!」
クラリスが机を叩いた。
「マリア様は、ただ人を助けてるだけなのに……!
誰も傷つけてないのに……!」
「“誰も傷つけてない”ことが、“証明できない”ってのが一番厄介なのよ」
私は小さく肩をすくめた。
「“正しくないやり方”で人を救うと、それは“正しさの価値”を壊すから。
だから、どんなに無害でも、“制度側から見れば有害”になる」
ライオネルは短く唸るように言った。
「カインは報告を“抑えた”のではなく、“繋いだ”のだろう。
だが、その隙間を狙って、教会内の別勢力が動き出した。
……次は、もっと直接的な干渉があるはずだ」
「暴力ですか?」
「もしくは、“公開糾弾”だ。
“信仰による混乱”という名目で、マリアを貶める証言を集める手段もある」
……わかってる。
こうなることは、最初から。
でも、思っていたよりも早く。
そしてずっと、じわじわと、くる。
「とりあえず今は、祈祷会の形式を“開かれた雑談”っぽく偽装しようか。
神様の話は出ないけど、“話すと元気になる会”とかにしとけば、たぶん監視も通過できるでしょ」
「……なんか昔の商売を思い出すなぁ」
私が思わずぽつりと呟くと、クラリスがきょとんとした顔でこちらを見た。
「マリア様、それ……どういう意味ですか?」
「ううん、気にしないで。前世の黒歴史がちょっと脳裏をかすめただけだから」
「黒歴史……ですか? でもマリア様なら、過去も今も全部、尊いです!」
「ありがとう。気持ちだけ受け取って、現実的にはいったん棚に上げとくね」
その夜。
教会の門前に、ひとりの旅人が現れた。
フードの奥から覗く顔は、若い――けれど、目だけが異様に疲れている。
「……“誰でも祈っていい”って、本当ですか?」
その声は、砂を噛むような弱さだった。
けれど、その背負った荷物は異様に重く、背中はずっと震えていた。
“新しい誰か”の物語が、ここで始まろうとしていた。
“信仰活動に関して異常な情熱は認めるが、害意や意図的逸脱は見られない”。
以上が、カイン監察官の最終報告です」
ライオネルが書状を読み上げると、クラリスが安堵と涙の混ざったような顔になった。
「よかった……! これで、“異端”じゃなくなったんですね!」
「いや、それは違うよ」
私の言葉に、クラリスは顔を上げる。
「“異端ではない”とは言われてない。“異端かどうか、まだ決めない”ってだけ。
保留っていうのは、むしろ、危うい立場に置き続けるってことでもあるの」
“否定されなかった”だけで、何も守られてない。
それが、“保留”という言葉の残酷さだった。
そして、それはすぐに現実になる。
その数日後、外部から新たな文書が届いた。
今度は、教会直轄区からの命令だった。
『特例聖女マリア=フェルツィアに関わる全ての祈祷・集会・言論活動は、今後“監視対象”とする』
『教会管轄外での説法・祈祷は禁止』
『違反のあった場合、正式な聖務停止処分を検討する』
……つまり。
“異端”とまでは言えないけど、
“放置はできない危険因子”として、縛る気らしい。
「こんな、勝手すぎます……!」
クラリスが机を叩いた。
「マリア様は、ただ人を助けてるだけなのに……!
誰も傷つけてないのに……!」
「“誰も傷つけてない”ことが、“証明できない”ってのが一番厄介なのよ」
私は小さく肩をすくめた。
「“正しくないやり方”で人を救うと、それは“正しさの価値”を壊すから。
だから、どんなに無害でも、“制度側から見れば有害”になる」
ライオネルは短く唸るように言った。
「カインは報告を“抑えた”のではなく、“繋いだ”のだろう。
だが、その隙間を狙って、教会内の別勢力が動き出した。
……次は、もっと直接的な干渉があるはずだ」
「暴力ですか?」
「もしくは、“公開糾弾”だ。
“信仰による混乱”という名目で、マリアを貶める証言を集める手段もある」
……わかってる。
こうなることは、最初から。
でも、思っていたよりも早く。
そしてずっと、じわじわと、くる。
「とりあえず今は、祈祷会の形式を“開かれた雑談”っぽく偽装しようか。
神様の話は出ないけど、“話すと元気になる会”とかにしとけば、たぶん監視も通過できるでしょ」
「……なんか昔の商売を思い出すなぁ」
私が思わずぽつりと呟くと、クラリスがきょとんとした顔でこちらを見た。
「マリア様、それ……どういう意味ですか?」
「ううん、気にしないで。前世の黒歴史がちょっと脳裏をかすめただけだから」
「黒歴史……ですか? でもマリア様なら、過去も今も全部、尊いです!」
「ありがとう。気持ちだけ受け取って、現実的にはいったん棚に上げとくね」
その夜。
教会の門前に、ひとりの旅人が現れた。
フードの奥から覗く顔は、若い――けれど、目だけが異様に疲れている。
「……“誰でも祈っていい”って、本当ですか?」
その声は、砂を噛むような弱さだった。
けれど、その背負った荷物は異様に重く、背中はずっと震えていた。
“新しい誰か”の物語が、ここで始まろうとしていた。
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