【完結】前世で教祖(ペテン師)してましたが、転生後「聖女」になって崇められてます

藤原遊

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第22話:神が赦したって、自分を赦せない人もいる

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「あなたのこと、中央が把握していないわけがなかったわね」

私は手紙を見ながら、思わず息をついた。

 

『レティシア・グランは、“第六東辺境叛逆事件”に連なる者であり、
彼女を教会施設内に保護することは、信徒への悪影響を懸念します』
『早急な退去措置を取るか、関与の中止を求めます』

 

クラリスが信じられないという顔で読み返していた。

「マリア様、これって……」

「うん、間違いなく、“名指しで追い出せ”って意味」

 

レティシアは、あれからずっと礼拝堂の隅で、祈る練習みたいに手を組んでいた。

時々、何かを呟いては、すぐ口をつぐむ。

「ごめんなさい」と「それでも」だけが混ざった目で。

 

「……レティシア。ちょっと散歩しようか」

 

彼女は少し戸惑っていたけど、黙ってうなずいた。

外の風はまだ冷たかったけど、森の縁に来る頃には彼女の表情も、ほんの少し緩んでいた。

 

「罪人の家に生まれたって、それが私のせいじゃないのは、わかってるんです」

「うん」

「でも……親のせいにするのも嫌なんです。
私は、あの人たちの子どもだって、胸を張って言えたことがない」

 

それが、彼女の中にあった“芯のない空洞”だったのだろう。

誰のせいにもできず、でも、どこにも立てない。

 

「……ねえ、レティシア。
神様って、“誰かを赦す”ために存在してると思う?」

 

「え……? ……はい、たぶん……」

 

「うん、私もそう思ってた。昔はね。
でも、最近ちょっと考え方が変わったの」

 

私は腰を下ろし、土の匂いを吸いながら彼女を見上げた。

 

「“赦し”って、本当は、“自分でやるもの”なんだと思う。
神様に“赦してもらった”って思っても、自分で赦せなかったら、やっぱり苦しいまま」

 

「……じゃあ、私が赦すべきは……自分、ですか?」

 

「うん。たぶん、そう」

 

レティシアは、ゆっくりと目を閉じた。

その顔は、とても静かで、でも何かを決めた人の顔だった。

 

 

その夜。
クラリスがそわそわした様子で私のところに来た。

「マリア様……あの、あの子、すごいんです……!
ずっと黙ってたのに、今日初めて、誰かに“ありがとう”って言ったんですよ!」

 

私はふっと微笑んだ。

「きっと、“言ってもいい言葉”が、やっとわかったんだね」

 

そのとき、レティシアがこちらに近づいてきた。

まだぎこちないけれど、自分の足で、ちゃんと。

 

「……マリア様。
もう少し、ここにいても……いいですか?」

 

その言葉が、“赦されたがっていた子”から、
“自分を赦す決意をした人”の声に変わっていた。

 

私は、軽くうなずいた。

 

「もちろん。ここは、“罪のない人だけの場所”じゃないから」
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