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第25話:信仰に正解を求める人たちが、怖かった
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「……“お言葉”は、どのような形式で授けられましたか?」
聖務騎士の一人が、ノートを片手に村人に問う。
「え、えっと……いつもお話ししてくれるんですけど、“お言葉”っていうより……なんかこう、“空気が柔らかくなる”っていうか……」
「“空気”では記録になりません。具体的にお願いします」
その隣では、別の騎士が老人に聞いていた。
「聖女マリア殿の“祈りの姿勢”は? 跪きましたか?」
「いや、ワシのときは立ってたな……あれ、いや、前に見たときは座ってたような……」
「証言が不一致です。どちらかが誤認の可能性があります」
おおよそ“神を探す態度”とは思えない口調が、村の空気をひんやりと染めていた。
私は教会のベンチに腰を下ろしながら、そっとつぶやいた。
「……なんか、“正しさ”で人の気持ちをはかろうとしてるよね、あの人たち」
ライオネルが、壁にもたれて腕を組んだままぼそりと返した。
「奴らにとっては、“奇跡の記録”が唯一の証拠だ。
感情も、空気も、信頼も、報告書には書けない」
「でもね、信仰って、報告書にしにくいものだからこそ意味があると思うの」
ちょうどそのとき、筆記官らしき者がこちらに来た。
「特例聖女マリア=フェルツィア殿。
記録のため、あなたの祈祷行動を“再現”いただけますか?
具体的には、先日“癒し”が起きたとされる祈りの手順を――」
「ありません」
私の即答に、周囲が静まり返った。
「その“祈りの手順”ってやつ、もともとないの。
私は人の話を聞いてただけ。奇跡が起きたかどうかは、知らない」
「……ならば、奇跡はあなたの力ではないと?」
「最初から言ってるよ。私は奇跡を“起こした人”じゃない。
“奇跡が起きたとき、そこにいた人”なだけ」
沈黙。
聖務騎士の視線が、じわじわと冷えていくのがわかる。
たぶん、“主張に一貫性があるほど、信じられない”って思ってる。
「祈りを“証明しよう”とするのって、すごく怖いんだよ」
私はぽつりと呟いた。
「だって、もし“正しい形”が証明されちゃったら、
それ以外の祈りは、全部“間違い”になっちゃうでしょ?」
「でも、間違ってても、人は祈るの。
間違ったって知ってても、何かに縋らなきゃ生きられない日もある。
……それを、“不合格”って言われるのが、一番こわい」
筆記官が、眉をひそめた。
「では、あなたの信仰は“教義に基づくものではない”と?」
「そうだね。
でも、“教義に救われなかった人たちが、それでも生きてる信仰”ってのも、あっていいでしょ」
その場にいた数人の騎士が、少しだけ目を伏せた。
たぶん彼らの中にも、どこかで“救われなかった日”があったのかもしれない。
だが、その一瞬の沈黙を割ったのは、隊長格の男だった。
「“信仰の混乱”を放置した場合、我らは強制的に対処する権限を持つ。
それが“信徒の秩序”を守るためならば、やむを得ない」
やれやれ。
“秩序”の名を借りてやってくる“正しさの剣”。
それが一番、信仰を壊すのに、便利な道具なんだよな。
聖務騎士の一人が、ノートを片手に村人に問う。
「え、えっと……いつもお話ししてくれるんですけど、“お言葉”っていうより……なんかこう、“空気が柔らかくなる”っていうか……」
「“空気”では記録になりません。具体的にお願いします」
その隣では、別の騎士が老人に聞いていた。
「聖女マリア殿の“祈りの姿勢”は? 跪きましたか?」
「いや、ワシのときは立ってたな……あれ、いや、前に見たときは座ってたような……」
「証言が不一致です。どちらかが誤認の可能性があります」
おおよそ“神を探す態度”とは思えない口調が、村の空気をひんやりと染めていた。
私は教会のベンチに腰を下ろしながら、そっとつぶやいた。
「……なんか、“正しさ”で人の気持ちをはかろうとしてるよね、あの人たち」
ライオネルが、壁にもたれて腕を組んだままぼそりと返した。
「奴らにとっては、“奇跡の記録”が唯一の証拠だ。
感情も、空気も、信頼も、報告書には書けない」
「でもね、信仰って、報告書にしにくいものだからこそ意味があると思うの」
ちょうどそのとき、筆記官らしき者がこちらに来た。
「特例聖女マリア=フェルツィア殿。
記録のため、あなたの祈祷行動を“再現”いただけますか?
具体的には、先日“癒し”が起きたとされる祈りの手順を――」
「ありません」
私の即答に、周囲が静まり返った。
「その“祈りの手順”ってやつ、もともとないの。
私は人の話を聞いてただけ。奇跡が起きたかどうかは、知らない」
「……ならば、奇跡はあなたの力ではないと?」
「最初から言ってるよ。私は奇跡を“起こした人”じゃない。
“奇跡が起きたとき、そこにいた人”なだけ」
沈黙。
聖務騎士の視線が、じわじわと冷えていくのがわかる。
たぶん、“主張に一貫性があるほど、信じられない”って思ってる。
「祈りを“証明しよう”とするのって、すごく怖いんだよ」
私はぽつりと呟いた。
「だって、もし“正しい形”が証明されちゃったら、
それ以外の祈りは、全部“間違い”になっちゃうでしょ?」
「でも、間違ってても、人は祈るの。
間違ったって知ってても、何かに縋らなきゃ生きられない日もある。
……それを、“不合格”って言われるのが、一番こわい」
筆記官が、眉をひそめた。
「では、あなたの信仰は“教義に基づくものではない”と?」
「そうだね。
でも、“教義に救われなかった人たちが、それでも生きてる信仰”ってのも、あっていいでしょ」
その場にいた数人の騎士が、少しだけ目を伏せた。
たぶん彼らの中にも、どこかで“救われなかった日”があったのかもしれない。
だが、その一瞬の沈黙を割ったのは、隊長格の男だった。
「“信仰の混乱”を放置した場合、我らは強制的に対処する権限を持つ。
それが“信徒の秩序”を守るためならば、やむを得ない」
やれやれ。
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それが一番、信仰を壊すのに、便利な道具なんだよな。
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