【完結】前世で教祖(ペテン師)してましたが、転生後「聖女」になって崇められてます

藤原遊

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第26話:奇跡って、誰が決めるの?

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「違うんです……俺、本当に治ったんです」

 

ラモンの目は、うるんでいた。

大の男が、人前で泣きそうになるってのは、それだけである種の“事件”だ。

 

彼は何年も前から足を悪くしていて、ずっと杖を手放せなかった。
なのに最近、少しずつ歩けるようになってきたらしい。

病院にも行ってない。特別な治療もしていない。

唯一の“変わったこと”といえば、私に祈ってもらったこと――だとか。

 

……いやいや、それ私のせいにしないで。

 

「祈祷の具体的効果と一致する自然治癒……これは奇跡と見て差し支えないかと」

聖務騎士のひとりが、即座に反応した。

マニュアルに沿った発言すぎて、ちょっと笑いそうになる。

 

「うん、差し支えあるよ」

私は、あっさりと言い切った。

 

「“誰が治したか”がはっきりしないうちは、“奇跡”じゃなくて“偶然”とか“経過”だよ。
それにさ、ラモンさん自身が“治ろう”って思ったの、大きかったんじゃない?」

 

ラモンが、ちょっと戸惑った顔でこっちを見た。

「……でも、本当にそうなら、なんで今まで治らなかったんですか?」

 

ああ、なるほど。そう思うよね。
でもね――それには、ちょっとだけコツがいる。

 

「“治りたい”って思うのと、
“治っていい”って思えるようになるのは、ぜんぜん違うんだよ」

 

その言葉に、ラモンの目が少し大きくなった。

 

「たとえばね。
誰かに“生きていい”って言ってもらえた瞬間、
人はようやく、“生きよう”って自分の体に命令できるようになる。
そういう仕組みなんだと思う」

 

「だから私は、“治してあげた”わけじゃないよ。
あなたの中にあった“治るのを邪魔してたもの”を、ちょっとだけ――
ほんのちょっと、どかしてあげただけ」

 

騎士たちは明らかに動揺していた。

彼らにとって、「治った=神の力=制度的奇跡」であることが絶対だったから。

その公式に、“聖女本人”が異議申し立てしてくるなんて、想定外だったんだろう。

 

「奇跡ってさ、“誰が決めるか”の話なんだよ」

 

私は、少しだけゆっくり言った。

 

「教会が“これは奇跡です”って言えば、
全部“聖なる光”に早変わり。でもね。
私は――“信じた人が、自分の中で決める”のが一番いいと思ってる」

 

しばらくして、ラモンは小さくうなずいた。

それから、ぽつりとつぶやいた。

 

「……マリア様に祈ってもらえたあの日、
“ああ、俺も、まだ歩いていいんだな”って、思えたんです。
それを、奇跡って呼んでも……いいですか?」

 

私は、笑った。

そして、はっきりと言った。

 

「うん。それなら、もう立派に奇跡だよ」

 

“聖なる光”なんて出してない。

でも、確かに――ひとりの人の中で、“何かが変わった”。

それだけで、もう充分じゃない?
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