【完結】前世で教祖(ペテン師)してましたが、転生後「聖女」になって崇められてます

藤原遊

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第27話:剣を持つ者が、初めて問いを持った日

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その青年は、夜更けにやってきた。

甲冑の音をできるだけ殺して歩いてくるあたり、
“騎士”という役をちょっとだけ忘れたかったのか、
あるいは――私の前では、忘れているふりをしたかったのか。

 

「……特例聖女、マリア殿」

 

「名前でいいよ。夜に来る人は、大体“肩書き”を門に置いてくから」

 

青年は、かすかに口元を緩めた。

その名は、セオドア。
聖務騎士団の中でも若手で、記録任務より“目で見て判断したい派”。

……まあ、中央ではちょっと浮いてるタイプだ。

 

「ひとつだけ、教えてもらってもいいですか」

 

「どうぞ。今夜は“非公式質問タイム”だしね」

 

彼は一瞬だけ黙った。
質問を選んでいるというより、感情を言葉に変える準備をしている顔だった。

そして、静かに言った。

 

「……僕の父は、生涯、神を信じていました。
祈りの中に神を見て、死ぬときも“ありがとう”って言って――笑って、逝きました」

 

「いいお父さんだね」

 

「でも、教義的には……彼の祈り方は“正しくなかった”とされてるんです。
“聖典に従っていない”、とか、“奇跡の記録もない”、とか。
……それでも、彼の信仰は、やっぱり偽物だったんでしょうか」

 

……うん、それはもう、“質問”の形をした葛藤だ。

そしてきっと、誰にも正解が出せない問い。
でも、どうしても誰かに聞いてみたくなる、そんな種類の疑問。

 

「そのお父さんが、“救われた顔”してたなら――
少なくとも私の感覚では、“本物の信仰”だったと思うよ」

 

セオドアは、ほんの少し目を伏せた。

 

「でも、記録には何も残ってません。
彼の祈っていた神の名を、教会では誰も口にしない」

 

「うん、それね。……“あるある”だよ」

 

私は苦笑しながら言った。

 

「記録って、“残すもの”じゃなくて、“信じたい人が探すもの”だから。
お父さんの信仰は、“証明”じゃなくて、“あなたの中に残ってる”ものでしょ?」

 

セオドアの顔が、ふっと揺れた。

あきらめでも後悔でもなく――
ただ、“ひとつ何かが、腑に落ちた”みたいな顔。

 

「……正直、今日までは、あなたのこと“危険思想者”だと思ってました」

 

「うん、それ褒め言葉として受け取っとくね」

 

「でも今は……少しだけ、“会えてよかった”と思ってます」

 

それは、“信仰の肯定”じゃない。

でも、“疑う自由を持てた顔”だった。

それはきっと、この村に来た意味そのものだと思う。

 

私は、静かにうなずいた。

 

「祈り方に正解はないけど――
“誰かを見下す祈り方”だけは、私はちょっと苦手」

 

「……それ、覚えておきます」

 

 

翌日。村の広場には、小さな輪ができていた。

その中心にいたのは、レティシア。

少し照れくさそうに手を組みながら、それでも真剣に祈っていた。

 

子どもたち、旅人たち、老人たち。

ぎこちない姿勢で、真剣に願っている人たち。

そこにはもう、“正しさを証明する空気”なんてなかった。

 

ただ――祈りが、そこにある。

それだけで、もう十分だった。
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