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第28話:この人を排除しろと言われて、はいと答えられますか?
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「報告書、少し手を加えました」
セオドアがそう言った瞬間、私は彼の目に“決意”の影を見た。
騎士の鎧より、よっぽど重たそうなものを背負ってる顔だった。
「“異端的傾向は見られず、信仰の表現に多様性があると判断”。
……通るかはわかりませんが、真実として残せるギリギリの表現です」
「ありがとう。
たぶん、そういう“少しだけ変える”って、一番勇気がいることだよね」
言いながら、ふと思った。
剣を振るより、記録を変えるほうがよっぽど怖いなんて。
……信仰の世界って、皮肉がうまくできすぎてる。
翌日。焚き火のそばで、ライオネルがぽつりと呟いた。
「……一度だけ、“この場で排除せよ”って命令を受けたことがある」
「誰を?」
「任務対象だった“元聖職者”。
教義に反した言動があったらしくて、監視任務の途中で“処理命令”が下った」
「……で、どうしたの?」
「無視したよ。その晩、俺の剣は外された」
私は、言葉をなくした。
彼がどれだけのものを差し出したのか――その目がすべてを語っていた。
「マリア様も、いずれ言われるだろう。
“この人を排除しろ”と。セオドアのような者でさえ、“信仰を揺るがす者”として扱われる」
「うん、そうかもね。でも」
私は炎を見つめながら、静かに言った。
「信仰って、“誰を信じるか”じゃなくてさ、
“誰を拒まないか”で成り立ってるんだと思う」
ライオネルが眉をひそめた。
「拒まないだけで、信仰になるのか」
「うん。最初は、それだけで充分だよ。
人を拒まず。差し出された祈りを否定しない。
“ここにいてもいい”って、そう思える場をつくる。
――それって、けっこう難しいんだよ」
ライオネルは黙っていた。
焚き火の音だけが、やけに静かに響いていた。
しばらくして、彼がぽつりとつぶやいた。
「……やっぱり、お前のやり方は教会には収まらないな」
「でも、“誰かの中”には、ちゃんと収まるでしょ?」
ちょうどそのとき、小さな鐘の音が響いた。
村の広場。レティシアが子どもたちと一緒に祈りの輪を囲んでいた。
ぎこちなくて、不安定で、形になりきらない。
でも、誰も排除されない信仰の場所。
その輪が、じわじわと、でも確かに広がっていく。
私はその手応えを胸に、そっと目を閉じた。
それだけで、今日という日が意味のあるものになる気がした。
セオドアがそう言った瞬間、私は彼の目に“決意”の影を見た。
騎士の鎧より、よっぽど重たそうなものを背負ってる顔だった。
「“異端的傾向は見られず、信仰の表現に多様性があると判断”。
……通るかはわかりませんが、真実として残せるギリギリの表現です」
「ありがとう。
たぶん、そういう“少しだけ変える”って、一番勇気がいることだよね」
言いながら、ふと思った。
剣を振るより、記録を変えるほうがよっぽど怖いなんて。
……信仰の世界って、皮肉がうまくできすぎてる。
翌日。焚き火のそばで、ライオネルがぽつりと呟いた。
「……一度だけ、“この場で排除せよ”って命令を受けたことがある」
「誰を?」
「任務対象だった“元聖職者”。
教義に反した言動があったらしくて、監視任務の途中で“処理命令”が下った」
「……で、どうしたの?」
「無視したよ。その晩、俺の剣は外された」
私は、言葉をなくした。
彼がどれだけのものを差し出したのか――その目がすべてを語っていた。
「マリア様も、いずれ言われるだろう。
“この人を排除しろ”と。セオドアのような者でさえ、“信仰を揺るがす者”として扱われる」
「うん、そうかもね。でも」
私は炎を見つめながら、静かに言った。
「信仰って、“誰を信じるか”じゃなくてさ、
“誰を拒まないか”で成り立ってるんだと思う」
ライオネルが眉をひそめた。
「拒まないだけで、信仰になるのか」
「うん。最初は、それだけで充分だよ。
人を拒まず。差し出された祈りを否定しない。
“ここにいてもいい”って、そう思える場をつくる。
――それって、けっこう難しいんだよ」
ライオネルは黙っていた。
焚き火の音だけが、やけに静かに響いていた。
しばらくして、彼がぽつりとつぶやいた。
「……やっぱり、お前のやり方は教会には収まらないな」
「でも、“誰かの中”には、ちゃんと収まるでしょ?」
ちょうどそのとき、小さな鐘の音が響いた。
村の広場。レティシアが子どもたちと一緒に祈りの輪を囲んでいた。
ぎこちなくて、不安定で、形になりきらない。
でも、誰も排除されない信仰の場所。
その輪が、じわじわと、でも確かに広がっていく。
私はその手応えを胸に、そっと目を閉じた。
それだけで、今日という日が意味のあるものになる気がした。
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