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第29話:信仰って、守るものじゃなく、差し出すものだと思う
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「正直、今のままだと、僕も“内部査問”にかけられます」
セオドアがそう言った夜は、驚くほど静かだった。
虫の声すら遠慮してるんじゃないかってくらいに。
その目にはもう、“騎士団”っていう守りの殻は残っていなかった。
「“過剰共感による判断の曖昧化”。
“記録の中立性に疑義あり”。
……おそらく本部では、僕の異動か停職が検討されていると思います」
相変わらず、報告はきっちりしてくれる。
まったく真面目な子だよ。
こんな真面目さ、中央じゃ一番早く使い潰されるのに。
私はただ、一言だけ返した。
「そっか。……ありがとう、知らせてくれて」
セオドアが、何かを言いかけて黙る。
そして、少しだけ間を置いて――お決まりの質問。
「……身を引くつもりは、ないんですか?」
「ないね」
私は即答した。むしろ清々しいくらいに。
「だってさ。
ここで私が“ごめんなさい”って頭下げて引っ込んだら、
“信仰って、守るために隠しておくもの”ってことになっちゃうじゃない」
セオドアの眉が、わずかに寄る。
「でも……マリア様の信仰は、場合によっては“攻撃”と見なされます」
「うん、そうだね。めんどくさい話だけど、そう」
私は空を見上げた。
月は出てなかったけど、そのぶん星がよく見えた。
「でもさ、思うんだ。
信仰って、“守る”ものじゃないんだよ。
“差し出す”ことでしか、意味を持たないんじゃないかなって」
「……差し出す、ですか」
「うん。自分が信じてるものを、正面から人前に出すって、怖いよ。
笑われるかもしれないし、怒られるかもしれないし、燃やされるかもしれない」
「でも、“それでも私はこれを信じます”って言えた瞬間だけ、
たぶん他の誰かに、“ああ、信じてもいいんだな”って思わせられる」
「祈りって、炎みたいなもんだからね。隠してたら、誰にも移らない」
セオドアは何も言わなかった。
でも、拳がほんの少しだけ震えていた。
それが恐れなのか、あるいは初めて知った“火の熱さ”なのか――
本人にも、まだ分かってなさそうだった。
そのあと。
焚き火のそばで、ライオネルが無言のまま私の隣に腰を下ろした。
しばらく炎を見て、それからぼそっと言った。
「……お前が“差し出す”なら、俺は“守る”よ」
「騎士って、そういう職業だったっけ?」
「違う。俺はもう騎士じゃない。“お前の隣にいる奴”だ」
……ああもう、こういうセリフ、ずるいよ。
思わず笑って、私はうなずいた。
「じゃあ、よろしく。“隣にいる奴”」
空はまだ静かだった。
でも、空気の匂いが変わっていた。
湿気と、緊張と――たぶん、“嵐の気配”。
来るなら来なさい。こっちはもう、火を灯してる。
セオドアがそう言った夜は、驚くほど静かだった。
虫の声すら遠慮してるんじゃないかってくらいに。
その目にはもう、“騎士団”っていう守りの殻は残っていなかった。
「“過剰共感による判断の曖昧化”。
“記録の中立性に疑義あり”。
……おそらく本部では、僕の異動か停職が検討されていると思います」
相変わらず、報告はきっちりしてくれる。
まったく真面目な子だよ。
こんな真面目さ、中央じゃ一番早く使い潰されるのに。
私はただ、一言だけ返した。
「そっか。……ありがとう、知らせてくれて」
セオドアが、何かを言いかけて黙る。
そして、少しだけ間を置いて――お決まりの質問。
「……身を引くつもりは、ないんですか?」
「ないね」
私は即答した。むしろ清々しいくらいに。
「だってさ。
ここで私が“ごめんなさい”って頭下げて引っ込んだら、
“信仰って、守るために隠しておくもの”ってことになっちゃうじゃない」
セオドアの眉が、わずかに寄る。
「でも……マリア様の信仰は、場合によっては“攻撃”と見なされます」
「うん、そうだね。めんどくさい話だけど、そう」
私は空を見上げた。
月は出てなかったけど、そのぶん星がよく見えた。
「でもさ、思うんだ。
信仰って、“守る”ものじゃないんだよ。
“差し出す”ことでしか、意味を持たないんじゃないかなって」
「……差し出す、ですか」
「うん。自分が信じてるものを、正面から人前に出すって、怖いよ。
笑われるかもしれないし、怒られるかもしれないし、燃やされるかもしれない」
「でも、“それでも私はこれを信じます”って言えた瞬間だけ、
たぶん他の誰かに、“ああ、信じてもいいんだな”って思わせられる」
「祈りって、炎みたいなもんだからね。隠してたら、誰にも移らない」
セオドアは何も言わなかった。
でも、拳がほんの少しだけ震えていた。
それが恐れなのか、あるいは初めて知った“火の熱さ”なのか――
本人にも、まだ分かってなさそうだった。
そのあと。
焚き火のそばで、ライオネルが無言のまま私の隣に腰を下ろした。
しばらく炎を見て、それからぼそっと言った。
「……お前が“差し出す”なら、俺は“守る”よ」
「騎士って、そういう職業だったっけ?」
「違う。俺はもう騎士じゃない。“お前の隣にいる奴”だ」
……ああもう、こういうセリフ、ずるいよ。
思わず笑って、私はうなずいた。
「じゃあ、よろしく。“隣にいる奴”」
空はまだ静かだった。
でも、空気の匂いが変わっていた。
湿気と、緊張と――たぶん、“嵐の気配”。
来るなら来なさい。こっちはもう、火を灯してる。
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