【完結】前世で教祖(ペテン師)してましたが、転生後「聖女」になって崇められてます

藤原遊

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第30話:それでも、私が信じたものを、ここに置いていきます

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「特例聖女マリア=フェルツィア殿に対し、
本教義に基づく公開聴聞および信仰検証の場を設ける」

それが、通達文の冒頭だった。

 

“審問”とは書かれていない。
でも、“聴聞”という言葉の裏にあるものは、誰の目にも明らかだった。

「つまり、“今のうちにやめるか、白状するか、どっちか選んでね”ってことか」

私は、通達文を折り畳みながらつぶやいた。

 

「マリア様……」

クラリスの声は、張り詰めた糸のように震えていた。

でも、私は笑って言った。

 

「大丈夫だよ。こういうの、前の人生で何度もやってきたから」

 

あの頃は、演説のあとに信者を泣かせて金を落とさせるのが仕事だった。
今回は、信者を泣かせて――信じたことを置いてくるだけだ。

 

 

出立の朝、村の広場に人が集まっていた。

誰かが言った。「置いていくのは、言葉です」

 

老女は言った。「あなたの祈りで、私は娘を思い出しました」

若者は言った。「あなたの言葉で、明日を考えるようになりました」

 

そしてレティシアは、震える手で小さな花を差し出した。

「祈ったら、咲きました。……これ、“奇跡”って呼んでいいですか?」

「もちろん」

私はそれを受け取って、胸元にそっと挿した。

 

 

審問会場は、無機質だった。

神の名が書かれた垂れ幕。
重々しい議席。
冷たい視線。

 

でも私の手の中には、あの花があった。
あの村の人たちの、祈りの残り香があった。

 

「マリア=フェルツィア殿。
あなたは自身の祈りによって、信徒に“奇跡”を与えたと認識していますか?」

一人の審問官が尋ねた。

 

私は、静かに答えた。

「いいえ。“奇跡”を与えたことはありません。
ただ、“奇跡を信じてもいい”と伝えたことはあります」

 

どよめき。

「では、その信仰は教義に準拠していないと認めますか?」

 

「準拠とは、“始まり”の話です。
でも私は、“今”のために祈っていました」

 

「あなたの信仰は独自の解釈に基づいている。
それをどうして“聖女の在り方”と呼べるのですか?」

 

私は、そっと手を胸に置いた。

「それでも、私が信じたものは、誰かに届いて、立ち上がらせました。
それが“教義”に反しているなら、私が教義を理解していないのかもしれません。
でも、それでも――私は、それを信じています」

 

そして、最後に。

 

「これは、私の“真理”ではなく、
私が差し出す、“信じてくれた人たちの形”です」

 

私は席を立ち、花をそっと、壇の上に置いた。

そして振り返らずに言った。

 

「裁きたければ、どうぞ。
でも、これは置いていきます。
誰かが、拾ってくれるなら」
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