【完結】前世で教祖(ペテン師)してましたが、転生後「聖女」になって崇められてます

藤原遊

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第31話:誰の中にも、小さな揺れは生まれてしまうものです

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「――判定、持ち越しか」

セオドアは、議事録を閉じながら小さく息を吐いた。

 

公開審問のあと、誰もが“即日除籍”を予想していた。

あれだけ明確に、しかも静かに教義へ反旗を翻した者に対して、
教会が手加減をする理由なんて、これまでなかったのだから。

 

だが、予想は裏切られた。

中央評議は、即時の裁定を避けた。

 

『発言内容に教義的逸脱の疑いが見られるものの、
信徒との信仰的結びつきが顕著であるため、
信仰形式の再定義を要検討とする』

 

……まあ、要するにこういうことだ。

**「どう扱えばいいか、分からなくなってきた」**ので、
とりあえず“保留”にした――それだけのこと。

 

「本気で、困ってるな」

会議後、古参の記録官がため息交じりに漏らした。

 

「マリア殿の言葉には“理論の穴”がない。
だが、枠にはまらない。
否定するには、我々の側が“柔軟さ”を捨てねばならない……」

 

別の審問官は、セオドアの耳元でぼそっとささやいた。

 

「君の報告は、逸脱していない。記録としても整っている。
……だが、“空気”が変わる。読む者が、思い出すんだ。
信仰が“感じるもの”だったということを」

 

そう、“空気”だ。

マリアは、教義を論破したわけじゃない。
彼女は、場の“空気”を変えてしまった。

それだけで十分に、脅威だった。

 

 

そのころ、村では。

マリアの言葉が、誰からともなく語られ始めていた。

 

「マリア様が言ってた、“正解じゃなくて、灯りになる祈り”って……あれ、好きだったな」

「“誰かの中に残るものが、本当の信仰”。あれ、わかる気がする」

 

広がる、というより“根づく”という表現が近かった。

誰かが誰かに広めるのではなく、
ひとりひとりが、自分の中に灯りを置くように、そっと反芻していた。

 

 

だが――その裏で。

まったく別の動きが、水面下で始まっていた。

 

「……“排除対象にしない”というのは、つまり“使える”ということだろう?」

とある外縁派の策略者が、ワインを傾けながらつぶやく。

 

「制度に不満を持つ層が、すでにざわつき始めている。
“あの聖女”を象徴に据えれば、風向きを変えられる」

 

信仰を、革命の道具にしようとする者たち。

その手に渡れば、“灯り”はすぐに“火種”になる。

 

そして、それは――マリアが最も望まない展開だった。

彼女が差し出した祈りは、誰かの“隣に立つ”ためのものであって、
決して、“誰かを押し流す”旗にはならないはずだった。
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