33 / 41
第32話:私の名前が、誰かの武器になるなら
しおりを挟む
「“あなたの祈りに共感した者たちが集っています”」
手紙は、そんなふわっと甘ったるい言葉から始まっていた。
だいたいこういうのは、最初の一文で察しがつく。
“改革派”だの、
“信仰の自由を守る新しい枠組み”だの、
“あなたの言葉が教会制度を揺るがす”だの。
要するに。
**「あなたを、旗にさせてくれませんか?」**という誘いだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
私は何も言わずに、手紙を焚き火に投げ込んだ。
くるくると舞った灰が、まるで“前世の失敗の再放送”みたいに風に散った。
懐かしいね、って言いかけてやめた。笑えない。
村にも、じわじわと“甘やかされた狂気”が芽を出してきていた。
「マリア様の教えでは……」
「マリア様が仰っていた“正しい祈り”は……」
そう語る人たちの目は、たしかに優しかった。
でも――その奥に、うっすらと“依存”の影が見える。
そしてその夜、クラリスが言った。
「ねえ、もっと“マリア様の祈り”を広めるべきです!
パンフレットとか、巡礼の会とか……!」
「ダメ」
私は、即答した。
「……えっ? でも、村のみんなが――」
「そう。“私を通して”祈ってるんだよね」
私は、少しだけ笑った。
そして、自分でもその笑いに棘が混じったのがわかった。
「でもさ、私、ただ“話した”だけなの。
その人が信じられるようになったのは、その人自身の力だよ。
それを“私の功績”にし始めたら、それはもう“教祖ルート”一直線だから」
クラリスは黙った。
私は、少しだけ間を置いてから、低く呟いた。
「……前にもあったの。“信じる者たちの中心”にされたことが。
私の言葉が“正しさ”になって、
それを否定する者が“間違っている”って、誰かが勝手に言い始めた」
あれは、教祖時代の話だ。
集まってくる信者たちは、私を信じてた。……はずだった。
でも私は、中心に立ちながら、誰よりも空っぽだった。
「だから今は、“自分で祈れる人”を増やしたいの。
“マリア様を信じた”じゃなくて――
“マリアを通して、自分の中に神様を見つけた”って言ってほしい」
クラリスは、ゆっくりうなずいた。
何かを噛みしめるように。
そしてぽつりと呟いた。
「……だから、マリア様は“聖女”なんですね」
私は苦笑した。
「違うよ。だから私は、“聖女”じゃない。
せいぜい、“信じたふりが得意な元教祖”だってば」
でも――
それでも、“誰かの信じる力”を、そっと手渡すことくらいはできる。
その小さな火を、誰にも見えない形で宿すことはできる。
それだけは、昔よりもずっと、信じられるようになった。
手紙は、そんなふわっと甘ったるい言葉から始まっていた。
だいたいこういうのは、最初の一文で察しがつく。
“改革派”だの、
“信仰の自由を守る新しい枠組み”だの、
“あなたの言葉が教会制度を揺るがす”だの。
要するに。
**「あなたを、旗にさせてくれませんか?」**という誘いだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
私は何も言わずに、手紙を焚き火に投げ込んだ。
くるくると舞った灰が、まるで“前世の失敗の再放送”みたいに風に散った。
懐かしいね、って言いかけてやめた。笑えない。
村にも、じわじわと“甘やかされた狂気”が芽を出してきていた。
「マリア様の教えでは……」
「マリア様が仰っていた“正しい祈り”は……」
そう語る人たちの目は、たしかに優しかった。
でも――その奥に、うっすらと“依存”の影が見える。
そしてその夜、クラリスが言った。
「ねえ、もっと“マリア様の祈り”を広めるべきです!
パンフレットとか、巡礼の会とか……!」
「ダメ」
私は、即答した。
「……えっ? でも、村のみんなが――」
「そう。“私を通して”祈ってるんだよね」
私は、少しだけ笑った。
そして、自分でもその笑いに棘が混じったのがわかった。
「でもさ、私、ただ“話した”だけなの。
その人が信じられるようになったのは、その人自身の力だよ。
それを“私の功績”にし始めたら、それはもう“教祖ルート”一直線だから」
クラリスは黙った。
私は、少しだけ間を置いてから、低く呟いた。
「……前にもあったの。“信じる者たちの中心”にされたことが。
私の言葉が“正しさ”になって、
それを否定する者が“間違っている”って、誰かが勝手に言い始めた」
あれは、教祖時代の話だ。
集まってくる信者たちは、私を信じてた。……はずだった。
でも私は、中心に立ちながら、誰よりも空っぽだった。
「だから今は、“自分で祈れる人”を増やしたいの。
“マリア様を信じた”じゃなくて――
“マリアを通して、自分の中に神様を見つけた”って言ってほしい」
クラリスは、ゆっくりうなずいた。
何かを噛みしめるように。
そしてぽつりと呟いた。
「……だから、マリア様は“聖女”なんですね」
私は苦笑した。
「違うよ。だから私は、“聖女”じゃない。
せいぜい、“信じたふりが得意な元教祖”だってば」
でも――
それでも、“誰かの信じる力”を、そっと手渡すことくらいはできる。
その小さな火を、誰にも見えない形で宿すことはできる。
それだけは、昔よりもずっと、信じられるようになった。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム
前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した
記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた
村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く
ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた
そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた
私は捨てられたので村をすてる
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
家族の肖像~父親だからって、家族になれるわけではないの!
みっちぇる。
ファンタジー
クランベール男爵家の令嬢リコリスは、実家の経営手腕を欲した国の思惑により、名門ながら困窮するベルデ伯爵家の跡取りキールと政略結婚をする。しかし、キールは外面こそ良いものの、実家が男爵家の支援を受けていることを「恥」と断じ、リコリスを軽んじて愛人と遊び歩く不実な男だった 。
リコリスが命がけで双子のユフィーナとジストを出産した際も、キールは朝帰りをする始末。絶望的な夫婦関係の中で、リコリスは「天使」のように愛らしい我が子たちこそが自分の真の家族であると決意し、育児に没頭する 。
子どもたちが生後六か月を迎え、健やかな成長を祈る「祈健会」が開かれることになった。リコリスは、キールから「男爵家との結婚を恥じている」と聞かされていた義両親の来訪に胃を痛めるが、実際に会ったベルデ伯爵夫妻は―?
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる