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第32話:私の名前が、誰かの武器になるなら
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「“あなたの祈りに共感した者たちが集っています”」
手紙は、そんなふわっと甘ったるい言葉から始まっていた。
だいたいこういうのは、最初の一文で察しがつく。
“改革派”だの、
“信仰の自由を守る新しい枠組み”だの、
“あなたの言葉が教会制度を揺るがす”だの。
要するに。
**「あなたを、旗にさせてくれませんか?」**という誘いだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
私は何も言わずに、手紙を焚き火に投げ込んだ。
くるくると舞った灰が、まるで“前世の失敗の再放送”みたいに風に散った。
懐かしいね、って言いかけてやめた。笑えない。
村にも、じわじわと“甘やかされた狂気”が芽を出してきていた。
「マリア様の教えでは……」
「マリア様が仰っていた“正しい祈り”は……」
そう語る人たちの目は、たしかに優しかった。
でも――その奥に、うっすらと“依存”の影が見える。
そしてその夜、クラリスが言った。
「ねえ、もっと“マリア様の祈り”を広めるべきです!
パンフレットとか、巡礼の会とか……!」
「ダメ」
私は、即答した。
「……えっ? でも、村のみんなが――」
「そう。“私を通して”祈ってるんだよね」
私は、少しだけ笑った。
そして、自分でもその笑いに棘が混じったのがわかった。
「でもさ、私、ただ“話した”だけなの。
その人が信じられるようになったのは、その人自身の力だよ。
それを“私の功績”にし始めたら、それはもう“教祖ルート”一直線だから」
クラリスは黙った。
私は、少しだけ間を置いてから、低く呟いた。
「……前にもあったの。“信じる者たちの中心”にされたことが。
私の言葉が“正しさ”になって、
それを否定する者が“間違っている”って、誰かが勝手に言い始めた」
あれは、教祖時代の話だ。
集まってくる信者たちは、私を信じてた。……はずだった。
でも私は、中心に立ちながら、誰よりも空っぽだった。
「だから今は、“自分で祈れる人”を増やしたいの。
“マリア様を信じた”じゃなくて――
“マリアを通して、自分の中に神様を見つけた”って言ってほしい」
クラリスは、ゆっくりうなずいた。
何かを噛みしめるように。
そしてぽつりと呟いた。
「……だから、マリア様は“聖女”なんですね」
私は苦笑した。
「違うよ。だから私は、“聖女”じゃない。
せいぜい、“信じたふりが得意な元教祖”だってば」
でも――
それでも、“誰かの信じる力”を、そっと手渡すことくらいはできる。
その小さな火を、誰にも見えない形で宿すことはできる。
それだけは、昔よりもずっと、信じられるようになった。
手紙は、そんなふわっと甘ったるい言葉から始まっていた。
だいたいこういうのは、最初の一文で察しがつく。
“改革派”だの、
“信仰の自由を守る新しい枠組み”だの、
“あなたの言葉が教会制度を揺るがす”だの。
要するに。
**「あなたを、旗にさせてくれませんか?」**という誘いだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
私は何も言わずに、手紙を焚き火に投げ込んだ。
くるくると舞った灰が、まるで“前世の失敗の再放送”みたいに風に散った。
懐かしいね、って言いかけてやめた。笑えない。
村にも、じわじわと“甘やかされた狂気”が芽を出してきていた。
「マリア様の教えでは……」
「マリア様が仰っていた“正しい祈り”は……」
そう語る人たちの目は、たしかに優しかった。
でも――その奥に、うっすらと“依存”の影が見える。
そしてその夜、クラリスが言った。
「ねえ、もっと“マリア様の祈り”を広めるべきです!
パンフレットとか、巡礼の会とか……!」
「ダメ」
私は、即答した。
「……えっ? でも、村のみんなが――」
「そう。“私を通して”祈ってるんだよね」
私は、少しだけ笑った。
そして、自分でもその笑いに棘が混じったのがわかった。
「でもさ、私、ただ“話した”だけなの。
その人が信じられるようになったのは、その人自身の力だよ。
それを“私の功績”にし始めたら、それはもう“教祖ルート”一直線だから」
クラリスは黙った。
私は、少しだけ間を置いてから、低く呟いた。
「……前にもあったの。“信じる者たちの中心”にされたことが。
私の言葉が“正しさ”になって、
それを否定する者が“間違っている”って、誰かが勝手に言い始めた」
あれは、教祖時代の話だ。
集まってくる信者たちは、私を信じてた。……はずだった。
でも私は、中心に立ちながら、誰よりも空っぽだった。
「だから今は、“自分で祈れる人”を増やしたいの。
“マリア様を信じた”じゃなくて――
“マリアを通して、自分の中に神様を見つけた”って言ってほしい」
クラリスは、ゆっくりうなずいた。
何かを噛みしめるように。
そしてぽつりと呟いた。
「……だから、マリア様は“聖女”なんですね」
私は苦笑した。
「違うよ。だから私は、“聖女”じゃない。
せいぜい、“信じたふりが得意な元教祖”だってば」
でも――
それでも、“誰かの信じる力”を、そっと手渡すことくらいはできる。
その小さな火を、誰にも見えない形で宿すことはできる。
それだけは、昔よりもずっと、信じられるようになった。
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