【完結】前世で教祖(ペテン師)してましたが、転生後「聖女」になって崇められてます

藤原遊

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第34話:それは“マリア様の言葉”じゃなく、私の祈りです

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「マリア様が、こう言ってましたから……」
「マリア様なら、きっとこうすると思うんです……」

 

――最近、この“呪文”を耳にしない日はなかった。

 

“私の言葉”が、便利に使われている。
盾にされ、看板にされ、誰かの判断の根拠にされて。

 

“聖女の言葉”という魔法の札。
“マリア式信仰”という予防線。

そして、クラリスはその札と線の中で、確かに悩んでいた。

 

 

その日も、祈祷会はいつものように静かに始まった。

「言葉を預かる時間です」
そう告げると、一人の女性が小さく手を挙げた。

 

「……あの。マリア様は“怒らない祈りがいい”って仰ってましたよね。
それなのに、私……昨日、子どもに怒鳴ってしまって……」

 

声が震えていた。

「……なんだか、自分が祈る資格なんてない気がして……」

 

その場が、しんと静まり返った。

誰も否定しなかったが、肯定もできずにいた。

 

すると、クラリスが立ち上がった。

 

「それ……たぶん、“マリア様の言葉”じゃなくて、“あなたの祈り”だと思います」

 

女性が目を見開いた。
周囲の視線が、クラリスに集まる。

 

「最近、私……やっと分かってきたんです。
マリア様って、“答え”をくれる人じゃなかったんですね」

 

言葉が落ちていくように、静かに続けられた。

 

「“こう祈れ”とか、“こう感じなさい”とか、あの人は滅多に言わない。
でも代わりに、“そのままのあなたの祈りでいい”って、
ずっと、黙って許してくれてた気がします」

 

誰も言い返さなかった。
けれど、そこにいた全員が――空気の温度が変わったことに気づいていた。

 

「だから、“怒った自分を許してほしい”なら、
それを、あなたの言葉で祈っていいんだと思います」

 

ぽつり、と小さな拍手が起きた。
それに続いて、もうひとつ、もうひとつ。

 

それは、誰かを讃える音ではなかった。

“誰かが、自分自身の祈りを見つけた音”だった。

 

 

私は、教会の片隅からそれを見ていた。

そして、自分に向かって、こっそり心の中で突っ込んだ。

 

(……これこれ。
ようやく、“看板のいらない信仰”が芽を出してきた)

 

そして、そっと一歩、後ろに下がった。

 

“聖女”じゃなくていい。
“マリア様”でも、“教祖様”でもなくていい。

誰かが「自分の言葉」で祈れる場所をつくること。
その背景にいるだけで、私はもう充分だ。

 

それが、今の私の――祈り方だ。
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