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第35話:信じる力は、誰にも預けない
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「教会制度は終わりますよ。
その瞬間、あなたが“希望の旗”になれば、信じた者たちは一斉に動き出す。
……それが、神の望む変革ではありませんか?」
その声は柔らかかった。
穏やかで、丁寧で、まるで“善意の仮面”を被った取引だった。
「なるほどね。で、何をしてほしいの?」
私は敢えて、軽く訊いた。
「名乗ってください。“信じる自由を導いた聖女マリア”として。
今なら、あなたの名前には……熱があります」
私は少しだけ笑った。
「熱があるうちに売れ、ってやつ? 商人時代なら話に乗ったかもね」
「……つまり、断ると?」
私は、焚き火にくべた枝を見つめながら、はっきり言った。
「私、信じる力を“誰かに預ける”のが一番怖いんだよね。
制度にも、組織にも、改革にも。
だって、“正しさ”って名のもとに、信仰がまた別の鎖にされるから」
「あなたがそれを止められる立場なら、利用すべきでは?」
「私が止めたいのは、信仰が“誰かの都合で動くこと”そのものなの。
……だから、誰の都合にもならないところに立ってるの」
代理人は黙った。
そして静かに去っていった。たぶん、二度と来ないだろう。
その夜、セオドアが来た。
「あなたが拒んだと聞きました。
あれが“変化の契機”だったのかもしれないのに」
「契機なら、あなたが作ればいいじゃない」
彼は目を細めて、少しだけ肩をすくめた。
「……難しいですね。でも、制度の内側にも“空白”がある。
マリア殿の言葉は、確実にそこに入り込んでます」
「じゃあ、私はもう黙っててもいいかな」
「……ええ。そのほうが、よく届くこともあると思います」
そして、もう一人。
クラリスが、ぽつりと口を開いた。
「マリア様、わたし……あの、もう……
“マリア様がいなくても、祈れる気がしてきました”」
私は少し驚いて、すぐ笑った。
「すごいね。じゃあ今日から、クラリス式の祈り、始めなよ」
「はい。……でも、最初の火をくださって、ありがとうございました」
“導かれた者”ではない。
“自分で灯した者”の目だった。
私は、かつての自分が育てようとして失敗した“本当の信仰”を、ようやく見た気がした。
そして心の中で、呟いた。
(よかった。これで私は、“誰にもならなくて済む”)
誰かの象徴でもなく。
誰かの師でもなく。
“ただ、そこにいた人”で終われるなら――それでいい。
その瞬間、あなたが“希望の旗”になれば、信じた者たちは一斉に動き出す。
……それが、神の望む変革ではありませんか?」
その声は柔らかかった。
穏やかで、丁寧で、まるで“善意の仮面”を被った取引だった。
「なるほどね。で、何をしてほしいの?」
私は敢えて、軽く訊いた。
「名乗ってください。“信じる自由を導いた聖女マリア”として。
今なら、あなたの名前には……熱があります」
私は少しだけ笑った。
「熱があるうちに売れ、ってやつ? 商人時代なら話に乗ったかもね」
「……つまり、断ると?」
私は、焚き火にくべた枝を見つめながら、はっきり言った。
「私、信じる力を“誰かに預ける”のが一番怖いんだよね。
制度にも、組織にも、改革にも。
だって、“正しさ”って名のもとに、信仰がまた別の鎖にされるから」
「あなたがそれを止められる立場なら、利用すべきでは?」
「私が止めたいのは、信仰が“誰かの都合で動くこと”そのものなの。
……だから、誰の都合にもならないところに立ってるの」
代理人は黙った。
そして静かに去っていった。たぶん、二度と来ないだろう。
その夜、セオドアが来た。
「あなたが拒んだと聞きました。
あれが“変化の契機”だったのかもしれないのに」
「契機なら、あなたが作ればいいじゃない」
彼は目を細めて、少しだけ肩をすくめた。
「……難しいですね。でも、制度の内側にも“空白”がある。
マリア殿の言葉は、確実にそこに入り込んでます」
「じゃあ、私はもう黙っててもいいかな」
「……ええ。そのほうが、よく届くこともあると思います」
そして、もう一人。
クラリスが、ぽつりと口を開いた。
「マリア様、わたし……あの、もう……
“マリア様がいなくても、祈れる気がしてきました”」
私は少し驚いて、すぐ笑った。
「すごいね。じゃあ今日から、クラリス式の祈り、始めなよ」
「はい。……でも、最初の火をくださって、ありがとうございました」
“導かれた者”ではない。
“自分で灯した者”の目だった。
私は、かつての自分が育てようとして失敗した“本当の信仰”を、ようやく見た気がした。
そして心の中で、呟いた。
(よかった。これで私は、“誰にもならなくて済む”)
誰かの象徴でもなく。
誰かの師でもなく。
“ただ、そこにいた人”で終われるなら――それでいい。
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