【完結】前世で教祖(ペテン師)してましたが、転生後「聖女」になって崇められてます

藤原遊

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第36話:名前も称号も捨てたあとに、残ったもの

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「――というわけで、正式に“聖女資格剥奪”です。
ただ、文面上は“任期満了”扱いにしておきました。記録上の配慮、です」

 

セオドアがそう言ったとき、私はちょうど旅装の荷をまとめているところだった。

 

「そっか。それじゃ、私も“元・特例聖女”ね。元がついたの、二度目だな」

「……え?」

「ううん、独り言。前も“元・教祖”だったから」

 

セオドアは苦笑した。彼ももう、こういう皮肉を“通常運転”として受け取れるようになっていた。

 

そしてもうひとり、準備をしている男がいた。

 

「で、そっちは?」

私が指をさすと、ライオネルは鎧の留め具を締めながら、平然と答えた。

 

「同行する」

「は?」

「お前に生活力がないのは事実だろう」

「それは否定しないけど……って、理由それだけ?」

「……他にも理由はあるが、説明すると長くなる」

 

彼の目がこちらを見ずに逸れたのを、私は見逃さなかった。
“何かを守る”という意志はあるくせに、それを口に出すのが照れくさいらしい。

 

私はため息をついて、肩をすくめた。

「ま、別に止めないけど。野営のときの火起こし、よろしくね。あと食料調達も」

「最初からそのつもりだ」

 

まったく――“忠誠心”っていうのは、時々とてもめんどくさい形をしている。

 

 

村に戻ったのは、ちょうど夕暮れ時だった。

陽が傾きかけた空の色が、以前より少しだけ柔らかく感じたのは、気のせいじゃなかった。

 

広場には、見覚えのある面々がいた。
でも、誰もこちらに駆け寄ってきたりしない。
代わりに、遠くから、小さく手を振る者がいた。

まるで、“もう祈り方を知っている人たち”のように。

 

「……戻ってきたって顔、してないな」

ライオネルがぼそりと呟く。

「うん。私自身、ここが“帰る場所”になるなんて、思ってなかったから」

 

教会から剥がされた名前。

聖女という称号。

信仰の枠から外れた私には、もう何の肩書きもない。

 

でも――この空気、この風景、この人たち。

 

「何も持っていないはずなのに、
……なんでこんなに、ちゃんと“何かが残ってる”感じがするんだろうね」

 

誰も答えなかった。

ただ、風が吹いた。

焚き火の残り香と、どこかから漂ってきた焼き立てのパンの匂いが混ざる。

 

そして、誰かがぽつりと言った。

「……“あの人は、名もなく祈ってくれた”って、それで充分ですよ」

 

マリアという名前は、これから少しずつ忘れられていくだろう。

でも、誰かが灯した火は、消えない。

 

私は、誰にも気づかれないように、ひとつだけ深く息を吐いた。

そして、今度こそ本当に――ただの人として、生きていこうと思った。
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