虐げられ王女と忠誠の騎士〜運命を結ぶ婚約の物語〜

8

庭園の花々が、夕暮れの光を受けて柔らかく輝いていた。
ルミナリエは、控えめな笑顔を浮かべながら、ベンチに腰掛けていた。そっと目を閉じると、穏やかな風が彼女の頬を撫でていく。庭園は、彼女が王宮の喧騒から離れる数少ない場所だった。

だが、その平穏を破る気配が迫っていた。

ヴィクターは、庭園を歩き回っていた。
先ほどまでの王妃とのやり取りが頭から離れない。彼女の微笑の裏に隠された冷たさと狡猾さを思い出しながら、胸の中に不穏な予感が渦巻いていた。

「庭園だ。」

気づけば足が自然と庭園へ向かっていた。そこは、ルミナリエがよく訪れる場所でもある。彼は、彼女が無事であることを確認したいという衝動に駆られていた。

その瞬間、茂みの奥から気配がした。
ヴィクターの剣士としての本能が鋭く警告を発する。彼は即座に足を止め、周囲に目を凝らした。

そして――薄闇の中から、複数の影が現れた。

男たちは黒い装束に身を包み、音もなく庭園の奥へ進んでいく。その手には短剣が握られている。狙いは明らかだ――ルミナリエ。

「……させるものか。」

ヴィクターは低く呟き、剣の柄に手を掛けた。

ルミナリエは、庭園の奥に咲く花を見つめていた。
ふと背後に気配を感じた瞬間、低い男の声が耳に届く。

「王女殿下、申し訳ありませんが、ここでお命頂戴いたします。」

恐怖で全身が凍りつく。その瞬間、金属音が響いた。

「彼女に触れるな！」

振り返ると、ヴィクターが剣を抜き、男たちと対峙していた。その目には、鋭い光が宿り、迷いのない動きで敵に向かっていく。

暗殺者たちは、次々と襲いかかるが、ヴィクターの動きは迅速だった。一人、また一人と倒されていく中で、残った暗殺者たちは怯え、次第に後退し始める。

「……退け！」

最後の男が倒れると、静寂が戻った。

ルミナリエは、震える手で口を覆っていた。
「ヴィクター殿……。」

彼女の声は震え、目には涙が浮かんでいる。恐怖と安堵が入り混じる中、ヴィクターがゆっくりと彼女の前に膝をついた。

「ご無事で何よりです。」
彼は静かに言い、優しく微笑んだ。

その微笑が、彼女の心を一気に崩した。
「怖かった……本当に……。」

ヴィクターは、そっと彼女の肩に手を置いた。
「もう大丈夫です。これからは、私がずっとお守りします。」

その言葉に、彼女は涙を流しながら頷いた。
「ありがとう……ヴィクター殿。」

彼の名前を呼ぶその声は、これまで以上に温かさを帯びていた。

その夜、王宮内では暗殺未遂事件の噂が広がっていた。
王妃は離宮の自室で報告を聞きながら、冷たい怒りを抑え込んでいた。

「失敗、ですか。」
侍女が恐縮して頷く。

王妃は扇を閉じ、冷たい目で窓の外を見つめた。
「英雄……というわけね。面白くなってきたわ。」

彼女は笑みを浮かべるが、その内心は焦燥に駆られていた。計画が失敗した以上、新たな手を考えなければならない。だが、それと同時に、この事態をどう利用するかを模索していた。