虐げられ王女と忠誠の騎士〜運命を結ぶ婚約の物語〜

藤原遊

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夜の静けさが王宮を包み込む中、ルミナリエは自室で落ち着かない様子で窓の外を見つめていた。
庭園での出来事が頭から離れない。鋭い刃が自分に向けられた瞬間、そして、迷うことなく自分を守り抜いてくれたヴィクターの姿。

「……ヴィクター殿……。」

その名前を呟くたびに胸が熱くなる。それは、恐怖から救い出された安堵感だけではなかった。

彼はただ「守る」と言った。その言葉に込められた真剣さは、これまで彼女が誰からも感じたことのない種類のものだった。心のどこかで「信じてみたい」と思わせる力を持っていた。

その夜、ヴィクターは部屋の中で剣の手入れをしていた。
刃についた汚れを慎重に拭いながら、彼女のことを考えていた。

「怖かった……本当に……。」

庭園で、震える彼女の声。あの姿が、今も脳裏に焼き付いている。
彼女がどれほど孤独の中で生きてきたか――自分がどれだけ彼女を守れるだろうか。

考え込んでいたその時、ノックの音が響いた。

「ヴィクター殿……少し、お時間をいただけますか?」

その声に、彼は立ち上がる。扉を開けると、ルミナリエが立っていた。普段より控えめな表情で、けれど真剣な目をしている。

「ルミナリエ様……。こんな時間に、どうされましたか?」

彼女は少し顔を赤らめながら答えた。

「少し……お話がしたくて。」

二人は、夜の静かな庭園を歩いていた。
先ほどの事件の現場だった場所だが、ヴィクターが隣にいることで、ルミナリエは恐怖を感じることはなかった。

「改めて……今日は助けていただいて、本当にありがとうございました。」

彼女は立ち止まり、頭を下げた。

「もし、あの時あなたがいなかったら……私は……。」

「どうか、そんなことをおっしゃらないでください。」

ヴィクターは静かに彼女を見つめた。

「私は、ただ守るべき人を守っただけです。それが、私の誓いですから。」

「誓い……。」

彼の言葉に、ルミナリエは顔を上げた。その目には涙が浮かんでいる。

「あなたは、なぜそこまで私を……?」

彼女の声はかすかに震えている。

「それは……私にとって、あなたが特別だからです。」

ヴィクターの言葉は真っ直ぐだった。その目には、迷いが一切見えなかった。

「幼い頃、私が初めてあなたに会った時から……ずっと、守りたいと思い続けてきました。」

その言葉に、ルミナリエは目を見開いた。彼の言葉が、記憶の中の情景と重なる。
あの月明かりの庭園、小さな頃に差し出された温かい手――それが、彼だったのだ。

「私……思い出しました。」
彼女は微笑みながら言った。
「あなたが、私の名前を呼んでくれたこと……私の手を取ってくれたこと……。」

「覚えていてくださったのですね。」
ヴィクターは嬉しそうに微笑んだ。

「私が孤独だった時、あなたがいてくれた……。そのことを忘れていたなんて……。」

彼女は目を伏せ、涙を流した。

ヴィクターはそっと彼女の肩に手を置いた。

「これからも、私はずっとあなたの隣にいます。もう、孤独を感じる必要はありません。」

彼の言葉に、ルミナリエは小さく頷いた。

「……信じてみます。あなたの言葉を。」

その瞬間、彼女の瞳に光が宿り、二人の間に新たな絆が生まれた。
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