死にキャラに転生したけど、仲間たちに全力で守られて溺愛されています。

IFループの中であったかもしれない世界

13

スフィアはギルドの中庭に集まった仲間たちを見渡しながら、胸の中で静かに計算を巡らせていた。彼らの張り詰めた表情、己の使命に燃える瞳。全員が街を守るという強い意志に満ちている。

（いいわ、この緊張感……この瞬間を、もっと深く彼らの心に刻み込んであげる。）

スフィアはあえて明るい声を出した。

「みんながいるなら、街は絶対に守れますよね！」

その言葉に、全員の視線が彼女に集まる。彼らの心が一瞬和らぐのを、スフィアは見逃さなかった。

（ほら、もう少しで安心しきった顔になるわ。そこを引き締めてあげるのが私の役目。）

「スフィア、お前は後方で結界を張ってろ。それ以上は危険だ。」
カインが眉をひそめて言うが、スフィアは首を振った。

「いいえ、私も一緒に街を守りたいです。結界術なら、きっと皆さんの力になりますから。」

彼女は笑顔を浮かべたまま、少し寂しげな視線を彼に向けた。その目には、自分を拒むのか――という無言の問いが含まれている。

「……分かった。けど、無理はするな。」
カインは目を逸らしながら言葉を飲み込む。

街の南門へ向かう途中、スフィアは彼らの背中を見つめながら静かに微笑んだ。

（ほら、こんなに簡単に私を前線に連れていこうとするなんて。私の言葉一つで、自分たちがどれだけ甘くなるのか分かってない。）

彼女は胸元に手を当て、微かな満足感を抱きながら進んだ。

（もっと頑張って、もっと私のことを大切だと思って。そうすれば、私がいなくなった後の喪失感は……完璧なものになるわ。）

ドラゴンが現れると、空気が一瞬にして張り詰めた。冒険者たちは次々と剣を抜き、呪文を唱える。スフィアは結界術の呪文を口ずさみながら、仲間たちの戦いを見守る。

（あのドラゴン……原作通りの姿。私の計画にぴったりな敵役ね。）

カインが前線で剣を振るい、レオンが隙を突き、エリオットの魔法が翼を狙い撃つ。その全てが、スフィアの想定内の動きだった。

「スフィア、結界が効いてるぞ！ これなら街を守れる！」
レオンが嬉しそうに振り返る。

「みんなが頑張ってくれてるからですよ！」
スフィアは笑顔で答えながら、心の中で静かに呟いた。

（ほら、もっと自分たちが私を守る存在だと思い込んで……。）

ドラゴンが追い詰められると、空へと飛び上がり、最後の火球を放った。その巨大な炎が街に向かって降り注ぐ。

「スフィア、やめろ！」
カインの声が聞こえるが、スフィアは一歩も引かなかった。

「街を守ります！」

全力で結界を展開し、炎を受け止める。その瞬間、全身に激しい衝撃が走るが、スフィアは笑みを浮かべた。

（これでいい……私はここで、役目を果たすだけ。）

火球が弾けると同時に、彼女の膝が崩れ、地面に倒れ込む。

スフィアは目を薄く開け、カインの腕の中で微かに呟いた。

「街は……守れましたか……？」

「守れた。お前のおかげだ。」
カインが震える声で答える。

「よかった……。」
スフィアは小さく笑い、そのまま意識を手放す。

（これで、みんなの心に私がどれだけ大切だったか……もっと刻み込めたわね。）

彼女が倒れると、4人が一斉に動き出した。エリオットが魔法を唱え、ユリウスが精霊たちを呼び寄せる。レオンが震える手でスフィアの髪を撫で、カインが必死に声をかけ続けた。

「スフィア、絶対に死なせない……！」
彼らの声が遠ざかる中で、スフィアは心の中で微笑んだ。

（いいわ。もっと私を守りたいと思い込んで。そして……その後の喪失感に苦しんで。）