死にキャラに転生したけど、仲間たちに全力で守られて溺愛されています。

藤原遊

文字の大きさ
46 / 68
IFループの中であったかもしれない世界

15

しおりを挟む
ドラゴンが倒れ、静寂が訪れた瞬間、街の空気が変わった。

それまでの激しい戦闘の音がすべて消え、風の音だけが耳に届く。だが、レオンの心臓は激しく脈打っていた。

カインが叫ぶ声が、全ての静寂を破った。

「スフィアッ!」

振り返ると、カインの腕の中にスフィアが倒れ込んでいるのが見えた。彼女は目を閉じ、蒼白な顔をしていた。その小さな体はまるで力を失った人形のようだった。

「嘘だ……スフィア……?」

レオンはその場に立ち尽くしたまま、足が動かない。
冷たい汗が背筋を伝い、胸が締め付けられる。

(なんで……どうしてこんなことに……。)

カインは無言でスフィアを抱え上げた。その表情には、焦燥と絶望が入り混じっている。普段は冷静なカインが、今は何かに追い詰められているようだった。

「エリオット! ユリウス! 早く何とかしろ!」

その声に、エリオットはすぐに駆け寄り、魔法を唱え始める。

「……まだ息がある! でも、スフィアの魔力が枯れてる!」

ユリウスも精霊を呼び寄せ、スフィアの体を包むように癒しの光を注いでいた。

「精霊たちがまだ応じてる……助かる可能性は……!」
ユリウスの声には必死の希望が滲んでいた。

だが――

「俺がギルドまで運ぶ!」
カインは強い声で言い放ち、立ち上がった。

「スフィアを……絶対に……絶対に失わせない……!」

その言葉に、レオンはようやく体を動かすことができた。
足は震えていたが、カインの後ろを追いかけるように歩き出した。

街への帰り道、カインの背中はどこか危うく見えた。
普段は堂々としているはずのその背中が、今は揺らぎ、崩れそうだった。

エリオットはずっと魔法を唱え続け、ユリウスも精霊の力を絶やさなかった。
しかし、スフィアの顔色は一向に良くならない。

「もっと……もっと力を注げ……!」

カインは何度も叫んだ。焦りと悔しさが声に滲み、彼の歩みは徐々に速くなっていく。

その時――

スフィアの髪から、ふわりとリボンが落ちた。
レオンはハッとして、それを拾い上げる。

(これは……お揃いにした、あの時のリボン……。)

柔らかな布地に触れると、スフィアの温もりがまだ残っている気がした。
彼は震える手でリボンを握りしめ、胸の前に押し当てた。

(返さなきゃ……スフィアに……。)

そう思った瞬間、カインが再び声を荒げた。

「スフィア! しっかりしろ! お前がいなくなったら、俺は……!」

その声に、レオンは胸が軋むような痛みを覚えた。
カインの慟哭が、彼の心に突き刺さる。

(……カインさんも、こんなに……。)

ギルドに到着すると、カインは誰にも触れさせずにスフィアを医務室へ運び、ベッドに横たえた。
エリオットとユリウスが再び回復魔法と精霊術を注ぎ込むが、スフィアの顔色は変わらない。

レオンは部屋の隅でただ立ち尽くし、握りしめたリボンを見つめていた。

(返さなきゃ……でも、どうやって……。)

その時、スフィアが微かに瞼を動かした。

「……カインさん……?」

レオンは息を呑んだ。
彼女が目を覚ました――その事実が、胸の奥を強く叩いた。

「街……守れたんですね……。」

「ああ、守れた。お前のおかげだ。」
カインの声は震えていた。

スフィアは小さく頷き、弱々しく微笑む。

「……よかった……。」

その笑顔を見た瞬間、レオンの目から涙がこぼれた。

(スフィア……君は、まだ……。)

だが、次の言葉が彼の胸を抉る。

「これまで……ありがとう……。」

その言葉に、レオンの手の中のリボンが、ぎゅっと握りしめられる。

(ありがとう……?)

「約束……守れなくて、ごめんね……。」

スフィアの声が、まるで遠くから響くように感じられた。

(約束……それは、僕との……?)

そして――

「幸せになってね……。」

その言葉を最後に、スフィアの瞳はゆっくりと閉じられた。
レオンは、心臓が締め付けられるような痛みを覚えた。

「……嘘だ……スフィア……。」

震える手で、リボンを再び握りしめる。
返すべき相手はもういない。

(君は……僕に「幸せになってね」って言ったんだよね……?)

彼は膝をつき、スフィアの冷たくなった手をそっと握りしめた。

「君がいなくなったのに……どうやって幸せになれっていうんだよ……。」

涙がリボンに落ちる。
レオンの嗚咽が、静かな室内に響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

湊一桜
恋愛
 王宮薬師のアンは、国王に毒を盛った罪を着せられて王宮を追放された。幼少期に両親を亡くして王宮に引き取られたアンは、頼れる兄弟や親戚もいなかった。  森を彷徨って数日、倒れている男性を見つける。男性は高熱と怪我で、意識が朦朧としていた。  オオカミの襲撃にも遭いながら、必死で男性を看病すること二日後、とうとう男性が目を覚ました。ジョーという名のこの男性はとても強く、軽々とオオカミを撃退した。そんなジョーの姿に、不覚にもときめいてしまうアン。  行くあてもないアンは、ジョーと彼の故郷オストワル辺境伯領を目指すことになった。  そして辿り着いたオストワル辺境伯領で待っていたのは、ジョーとの甘い甘い時間だった。 ※『小説家になろう』様、『ベリーズカフェ』様でも公開中です。

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

ブラック企業から異世界転移した私、辺境伯様に拾われて「仕事は禁止、甘やかすのが俺の仕事だ」と言われて困っています

さくら
恋愛
過労死寸前で異世界転移した私。 気を失っていたところを拾ってくれたのは、辺境伯様――。 助かった!と思ったら、彼の第一声はまさかのこれ。 「仕事は禁止。俺の仕事は君を甘やかすことだ」 ……え、何を言ってるんですかこの人!? 働かないと落ち着かないOL VS 徹底的に休ませたい辺境伯。 「庭を歩け」「お菓子を食べろ」「罪悪感は禁止」――全部甘やかしの名目!? 気づけば心も身体もほぐれて、いつしか彼の隣が一番安らぐ場所になっていた。

処理中です...