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第1章 英雄の凱旋
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乾いた音が、室内に響いた。
思考より先に、身体が動いていた。リュミエールの掌が、エドガーの頬を打つ。平手打ちだった。
――抑えている。
それは、彼女自身が一番よく分かっている。もし戦場で振るった力のまま叩けば、首が繋がっている保証などどこにもない。それでも、この程度で十分だった。
王子の身体が横に流れ、壁に手をつく。頬は瞬く間に赤く腫れ上がった。
「……っ」
悲鳴にならない声が漏れる。
室内が、完全に凍りついた。
「安心なさい」
リュミエールは静かに言った。
「手加減はしているわ」
その言葉に、周囲が息を呑む。――今のが、手加減。
「魔王を討てる聖女の全力を受けたら、あなたの首は今ここにないもの」
感情を交えない、事実を述べるだけの口調だった。
一歩、踏み出す。
「そうさせたのは、誰だったかしら」
視線は、王子だけを射抜く。
「騎士すら与えなかったあなたたちでしょう」
声は低く、鋭い。
「国を守るから無理だと言って前線に放り出した。勇者が逃げても、誰も補充せず、それでも私を戻そうとしなかった」
王子は、言葉を失っている。
「それで今さら、『強いから一人で生きていける』?」
ほんの少し、口角が上がった。
「都合が良すぎるわ」
その時、扉が勢いよく開いた。
「何事だ!」
王と、数名の重鎮たちが駆け込んでくる。倒れかけた王子、震える妹、そして静かに立つ聖女。その光景に、全員が言葉を失った。
「リュミエール、これは――」
「謝罪は要りません」
被せるように、リュミエールが言う。
「補填も、名誉も、地位も。何一つ、要らない」
その断言に、空気が張り詰めた。
「私からは、これで終わりです」
そう言ってから、彼女は穏やかに微笑む。
「ですが、女神は裏切りを許さないと、教会では言われていますから」
重鎮たちの顔色が変わった。
「きっと、天罰が下るでしょう」
脅しではない。確信でもない。ただ、世界を救った聖女が告げる“可能性”。
その重みに、王子だけでなく、王も、周囲も言葉を失った。
リュミエールは、もう何も言わない。
踵を返す。
彼女は怒りを振るい切った。それでもなお、力は制御されていた。
――それが、彼女が聖女である理由だった。
思考より先に、身体が動いていた。リュミエールの掌が、エドガーの頬を打つ。平手打ちだった。
――抑えている。
それは、彼女自身が一番よく分かっている。もし戦場で振るった力のまま叩けば、首が繋がっている保証などどこにもない。それでも、この程度で十分だった。
王子の身体が横に流れ、壁に手をつく。頬は瞬く間に赤く腫れ上がった。
「……っ」
悲鳴にならない声が漏れる。
室内が、完全に凍りついた。
「安心なさい」
リュミエールは静かに言った。
「手加減はしているわ」
その言葉に、周囲が息を呑む。――今のが、手加減。
「魔王を討てる聖女の全力を受けたら、あなたの首は今ここにないもの」
感情を交えない、事実を述べるだけの口調だった。
一歩、踏み出す。
「そうさせたのは、誰だったかしら」
視線は、王子だけを射抜く。
「騎士すら与えなかったあなたたちでしょう」
声は低く、鋭い。
「国を守るから無理だと言って前線に放り出した。勇者が逃げても、誰も補充せず、それでも私を戻そうとしなかった」
王子は、言葉を失っている。
「それで今さら、『強いから一人で生きていける』?」
ほんの少し、口角が上がった。
「都合が良すぎるわ」
その時、扉が勢いよく開いた。
「何事だ!」
王と、数名の重鎮たちが駆け込んでくる。倒れかけた王子、震える妹、そして静かに立つ聖女。その光景に、全員が言葉を失った。
「リュミエール、これは――」
「謝罪は要りません」
被せるように、リュミエールが言う。
「補填も、名誉も、地位も。何一つ、要らない」
その断言に、空気が張り詰めた。
「私からは、これで終わりです」
そう言ってから、彼女は穏やかに微笑む。
「ですが、女神は裏切りを許さないと、教会では言われていますから」
重鎮たちの顔色が変わった。
「きっと、天罰が下るでしょう」
脅しではない。確信でもない。ただ、世界を救った聖女が告げる“可能性”。
その重みに、王子だけでなく、王も、周囲も言葉を失った。
リュミエールは、もう何も言わない。
踵を返す。
彼女は怒りを振るい切った。それでもなお、力は制御されていた。
――それが、彼女が聖女である理由だった。
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