世界を救った聖女ですが、浮気されたので魔王と手を組みます

藤原遊

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第2章 聖女であることの疑問

2-3

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野営の火が、小さく弾けた。

リュミエールは鍋を見つめながら、干し肉を齧る。味は淡泊だったが、不思議と不満はない。空腹を満たすための食事として、十分だった。

――そういえば。

ふと、戦場で見た魔族の土地を思い出す。

黒ずんだ大地。硬く、ひび割れた土壌。人間の畑のように、作物が育つ気配はどこにもなかった。あの土地は、明らかに痩せていた。

理由は、はっきりしている。

闇の神の力が、濃すぎるのだ。

魔族の領域では、鉱石が異常なほど硬く、魔力を帯びて強化されていた。武具や結界に使うには理想的な環境だ。森に入れば魔物は活性化しており、肉には困らない。むしろ、過剰なくらいだった。

だが――作物が育たない。

光の女神の賜り物である穀物や果実は、闇の濃い土地では根を張れない。生命を育てる力そのものが、噛み合っていない。

戦場で見た光景が、少しずつ繋がっていく。

魔族の食糧は、肉と、わずかな交易品だけ。それでは、国は保たない。民を養い続けることはできない。

「……そういうこと」

呟きは、静かだった。

魔王軍が国境を越えた理由。人間の領土に攻め入った理由。征服でも、破壊衝動でもない。

――生きるため。

必要なものを、必要なだけ確保するためだった。

リュミエールは焚き火に小枝を足す。火が、少しだけ強くなる。

思い返せば、魔王軍の進軍は無秩序ではなかった。無駄な焼き討ちはせず、農地を潰さない。略奪も最小限に抑えられていた。

人間側の被害が、想像より少なかった理由。

「……王だったのね」

思わず、そう口にしていた。

国を背負い、選択を迫られ、それでも進むしかなかった存在。魔王は、衝動で戦を始めたわけではない。

聖女の義務として、彼女は刃を向けた。疑う余地などなかった。

けれど、今なら分かる。

あれは、善と悪の戦いではなかった。生き延びるための、国家同士の衝突だった。

火を見つめる視線が、自然と遠くへ向く。

魔王は、今、何をしているのだろう。生き残った魔族たちは、どうやって冬を越すのだろう。

胸の奥に、小さな痛みが走る。

それは後悔ではない。責める感情でもない。ただ――理解してしまった、という感覚。

「……遅かったかしら」

誰に向けた言葉でもない。

焚き火が、ぱちりと音を立てる。

リュミエールは立ち上がり、鞄を引き寄せた。足取りは、迷っていない。

違和感の正体は、もうはっきりしている。

魔王軍が攻め入ったのは、生存のためだった。

そして、その理由を理解した今――彼女の進む先は、自然と定まりつつあった。
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