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第4章 魔王軍再建と理解
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執務の合間、ふとした沈黙の中で、リリスが口を開いた。
「ねえ、ひとつ聞いていい?」
リュミエールは書類から顔を上げる。
「なにかしら」
サキュパスは、少しだけ真剣な表情をしていた。
「闇の神の加護を持つ私たち魔族に、嫌悪感はないの?」
試すような問いではない。
けれど、軽い質問でもなかった。
リュミエールは一瞬考え、それから正直に答える。
「嫌悪、はないわ」
ペンを置き、淡々と続ける。
「わかるのはね、どの辺りに強い人がいるか、とか、魔力の濃淡くらい。
危険かどうかは判断できるけど……それだけよ」
視線をリリスに戻す。
「善悪とか、好き嫌いとは、結びついていないわ」
リリスは、じっと彼女を見つめた。
サキュパスの瞳が、わずかに色を変える。
魅了でも、混乱でもない。
感情の奥を撫でるような、探る視線。
――読む。
心の底。
言葉になる前の感覚。
意図の歪み。
数秒後、リリスは目を瞬いた。
「……」
そして、小さく息を吐く。
「この人、嘘ついてない」
ぽつりと、確信を込めて。
その言葉に、周囲の空気がわずかに緩む。
リュミエールは首を傾げた。
「疑われていたの?」
「まあ、一応ね」
リリスは肩をすくめる。
「光の女神の聖女が、闇の神の眷属を前にして平気な顔してるんだもの。
普通は、どこかで引っかかる」
少し間を置いて、続ける。
「でも、あなたの中には“拒絶”がない。
警戒はあるけど、それは理性。
感情じゃない」
リュミエールは、ふっと微笑んだ。
「役に立つかどうか、危険かどうかは見るわ。
でも、属性で嫌ったりはしないもの」
「……そう」
リリスは短く返した。
それ以上、何も言わない。
けれどその一言には、
警戒を解いた合図が、はっきりと含まれていた。
サキュパスは、嘘を許さない。
同時に、真実を見抜いた相手には、無駄な疑いを向けない。
その沈黙の意味を、
リュミエールはきちんと理解していた。
こうしてまた一つ、
魔王軍の中で、
彼女は「信用できる存在」として認識されていく。
「ねえ、ひとつ聞いていい?」
リュミエールは書類から顔を上げる。
「なにかしら」
サキュパスは、少しだけ真剣な表情をしていた。
「闇の神の加護を持つ私たち魔族に、嫌悪感はないの?」
試すような問いではない。
けれど、軽い質問でもなかった。
リュミエールは一瞬考え、それから正直に答える。
「嫌悪、はないわ」
ペンを置き、淡々と続ける。
「わかるのはね、どの辺りに強い人がいるか、とか、魔力の濃淡くらい。
危険かどうかは判断できるけど……それだけよ」
視線をリリスに戻す。
「善悪とか、好き嫌いとは、結びついていないわ」
リリスは、じっと彼女を見つめた。
サキュパスの瞳が、わずかに色を変える。
魅了でも、混乱でもない。
感情の奥を撫でるような、探る視線。
――読む。
心の底。
言葉になる前の感覚。
意図の歪み。
数秒後、リリスは目を瞬いた。
「……」
そして、小さく息を吐く。
「この人、嘘ついてない」
ぽつりと、確信を込めて。
その言葉に、周囲の空気がわずかに緩む。
リュミエールは首を傾げた。
「疑われていたの?」
「まあ、一応ね」
リリスは肩をすくめる。
「光の女神の聖女が、闇の神の眷属を前にして平気な顔してるんだもの。
普通は、どこかで引っかかる」
少し間を置いて、続ける。
「でも、あなたの中には“拒絶”がない。
警戒はあるけど、それは理性。
感情じゃない」
リュミエールは、ふっと微笑んだ。
「役に立つかどうか、危険かどうかは見るわ。
でも、属性で嫌ったりはしないもの」
「……そう」
リリスは短く返した。
それ以上、何も言わない。
けれどその一言には、
警戒を解いた合図が、はっきりと含まれていた。
サキュパスは、嘘を許さない。
同時に、真実を見抜いた相手には、無駄な疑いを向けない。
その沈黙の意味を、
リュミエールはきちんと理解していた。
こうしてまた一つ、
魔王軍の中で、
彼女は「信用できる存在」として認識されていく。
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