悪役令嬢の破滅フラグ？転生者だらけの陰謀劇！勝者は誰だ

藤原遊

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プロローグ

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空はどこまでも青く、澄み渡っていた。だが、その静寂が広がる庭園の中で、ひとりの少女の心には、嵐が吹き荒れている。

レティシア・ド・ベルクレア。アルトラ王国の名門貴族の娘として育った彼女は、見る者を魅了する完璧な美貌の持ち主だった。

――絹糸のように輝く金髪は、日差しを受けて柔らかに揺れる。長い睫毛に縁取られた碧眼は、まるで湖面に映る空のような深さをたたえていた。その佇まいは優雅そのもの。だが、その瞳の奥には、どこか醒めた光が宿っている。

「またか……」

彼女はため息をつき、小鳥のさえずりが響く庭園のベンチに腰を下ろした。視線の先には、青空を映す大理石の噴水。だがその光景に心を癒される余裕など、今の彼女にはない。

すべての原因は、つい数時間前に起こった学園パーティでの出来事だ。

それは、「乙女ゲーム」の世界に転生した彼女にとって、避けられないイベントだった――王太子アルフォンス・グレイストーンによる「婚約破棄」の宣告。

「レティシア・ド・ベルクレア。お前との婚約はここにて破棄する」

威厳に満ちた声でそう告げた彼の姿は、まさに“王太子”の名にふさわしい凛々しさだった。背筋の通った端正な顔立ち、鋭い青い瞳、そして堂々たる態度。その場にいた全員が、その決断に震え上がった――誰もが、王太子に従うべき存在だと信じて疑わない。

ただし、一人を除いて。

「やっと来たか……！」

心の中でレティシアは密かに拳を握った。この瞬間こそ、彼女がこの「ゲームの世界」で迎えるべき破滅フラグの始まりだったからだ。

数年前、交通事故で命を落としたレティシアは、目を覚ましたとき、自分が「乙女ゲーム」に登場する悪役令嬢に転生していることを知った。

そのゲーム内でのレティシア・ド・ベルクレアは、王太子アルフォンスの婚約者。ヒロインをいじめ抜く典型的な悪役で、最終的には破滅する運命にあった。

国外追放、あるいは処刑――どちらにせよ、ゲームの中で彼女の未来は暗い結末に彩られている。

「そんなもの、御免だわ」

転生当初から、彼女は決意を固めていた。どんな手を使ってでも、この破滅フラグを回避してみせる、と。

「でも、思っていたよりハードルが高いのよね……」

レティシアは頬に手を当て、呟いた。アルフォンスの婚約破棄がきっかけとなり、貴族社会での彼女の地位は大きく揺らぎ始めている。さらに噂では、彼女がヒロインであるマリア・ハーツフィールドをいじめたとされており、周囲からの視線は冷たさを増す一方だった。

実際、マリアは「現実世界」からの転生者であり、ゲームのヒロインとして運命を歩むべき存在だ。その事実を知るのはレティシアだけだったが、彼女自身、マリアがどこまでゲームの流れを把握しているのかは分からない。

「……でも、あの子は放っておけば良いわ。私が気にするべきは、私自身の破滅をどう防ぐか」

立ち上がったレティシアは、庭園の石畳を歩きながら、これからの計画を考え始めた。破滅フラグを回避するためには、まず「婚約破棄後の危機」を乗り越える必要がある。

だが、それは決して簡単なことではない。

この学園や貴族社会には、表向きの華やかさの裏に、常に権力争いや陰謀が渦巻いている。噂を操る者たち、ライバルたち、そして自分を「悪役」として見る目――そのすべてに打ち勝たなければならないのだ。

その夜、彼女は再び決意を新たにして眠りについた。だが、翌朝目を覚ましたとき、すべての計画が音を立てて崩れる出来事が起こることを、彼女はまだ知らなかった。

運命の歯車が、音もなく狂い始めていた。

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