悪役令嬢の破滅フラグ?転生者だらけの陰謀劇!勝者は誰だ

藤原遊

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リシャールの言葉が意味するものが何なのか、レティシアにはまだ掴みきれなかった。だが、「世界そのものが動いている」という一言が、胸の奥に奇妙な不安を残したことは確かだった。

翌朝、学園ではさらなる噂が広まっていた。

「レティシア様が、学園外で妙な男と会っているらしいわ」

「やっぱり“悪役令嬢”ってそういう人なんだわ。隠れて何か企んでるに違いない!」

廊下を歩くレティシアの耳に、そうした声がはっきりと届く。これまでの冷たい視線に加えて、何かを確信したような軽蔑の笑みさえ見られるようになってきた。

「……また新しい噂ね」

レティシアは唇を引き結び、冷静を装いながら学園内を歩き続けた。だがその内心では、このような噂がさらに広がれば、破滅フラグ回避どころではなくなることを危惧していた。

(誰かが、意図的に私を陥れようとしている……)

心当たりはない。だが、演劇の影響だけでこれほどの噂が拡大するわけがないことは明白だった。

その日の放課後。レティシアは学園の外れにある中庭で、リシャールと再び顔を合わせた。彼は相変わらずの余裕を漂わせながら、ベンチに座っていた。

「君、最近の噂を聞いているだろう?」

レティシアは返答せず、そのまま彼の隣に腰を下ろした。

「あなたのせいじゃないでしょうね?」

半ば冗談交じりにそう言うと、リシャールは肩をすくめた。

「どうだろうね。僕の存在が“火種”になった可能性はある」

その飄々とした態度に少し苛立ちながらも、レティシアは視線を鋭く向けた。

「だったら、何か手を打ちなさいよ。あなたにはそれができるでしょう?」

「君、ずいぶんと僕を買ってくれているんだね」

リシャールはそう言うと、少しだけ真剣な表情に変わった。

「確かに、この噂を広めたのは意図的なものだ。それも、学園内だけじゃなく、もっと外側からの動きだろう」

「……外側?」

レティシアが問い返すと、彼は静かに頷いた。

「君を“悪役令嬢”として仕立て上げることで、得をする連中がいる。彼らの目的は――君を破滅させることじゃなく、君を利用することだ」

その言葉に、レティシアは背筋が冷たくなるのを感じた。

「利用する……?」

「そうだ。この世界の舞台で、“悪役令嬢”がどれほど重要な存在か、君はわかっているだろう?」

リシャールの視線には、どこか深い意味が込められていた。それを直視しながら、レティシアは静かに首を振る。

「そんなこと、考えたこともなかったわ」

「なら、考えるべきだよ。君を“悪役”にしたいのは、ただの悪意じゃない。もっと大きな目的がある」

その夜、レティシアは邸宅の書斎で、一人考え込んでいた。リシャールの言葉が、何度も頭の中で反響する。

(私を利用する……)

彼女の心の奥で何かが引っかかる。それは、この世界が「乙女ゲーム」であることを知る者だけが感じ取れる違和感だった。

「“悪役令嬢”が物語の鍵……」

自分の存在が、ただ破滅を迎えるだけの脇役ではないのかもしれないという考えが浮かんだ瞬間、彼女の中で新たな決意が生まれた。

(誰が何を企んでいるのか、必ず突き止める。それが破滅を回避する道になるはず)

そのとき、部屋の扉を叩く音が響いた。使用人のクララが顔を覗かせる。

「お嬢様、遅い時間に申し訳ありません。客人がお見えです」

「客人?」

「はい。王太子殿下です」

その言葉に、レティシアは目を見開いた。こんな時間にアルフォンスが訪れる理由とは一体――?

応接室で待つアルフォンスの姿は、いつになく険しいものだった。完璧に整えられた王太子らしい姿も、今夜ばかりはその影を曇らせている。

「遅くに申し訳ない」

彼の声には、わずかな疲労が滲んでいた。だがその瞳には、何かを決意したような力強さがある。

「どうしてここに?」

レティシアが静かに問いかけると、アルフォンスは彼女を真っ直ぐに見つめた。

「お前に話さなければならないことがある」

その言葉の裏に隠されたものを探ろうとする前に、彼は口を開いた。

「お前が最近噂されている“悪役令嬢”の件だ。これは、ただの偶然ではない」

「……それは、私も気づいているわ」

「ならば協力しろ。これ以上、国を危険にさらすわけにはいかない」

アルフォンスの真剣な言葉に、レティシアは少しだけ眉をひそめた。

「協力、ですって?」

「そうだ。お前を“悪役”に仕立て上げようとしている者たちの目的を突き止める。それには、お前が必要だ」

彼の声には、これまでとは違う本気の響きがあった。だが、レティシアは即座に答えることができなかった。

(本当に信じていいの?)

彼女の胸の中に芽生えた迷いを見透かすように、アルフォンスは言葉を続けた。

「お前がどう思おうと関係ない。私はこの国の未来のために動いている。そして、それにはお前の力が必要だ」

その瞳には、かつての婚約者としての感情ではなく、王太子としての覚悟が宿っていた。レティシアは短く息を吐き、彼の言葉を受け止める。

「……わかったわ。ただし、私の条件も聞いてもらうわよ」

アルフォンスが頷くと、彼女の心に小さな決意が芽生えた。

その協力が、さらに深い陰謀への扉を開くことになるとも知らずに――。
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