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翌日の学園。レティシアは、前日の出来事を胸の中に秘めたまま、廊下を歩いていた。リシャールとの会話は、彼女に不思議な感覚を残していた。挑発するようでいて、どこか温かさがある。彼は一体何を考えているのか、簡単には読めそうにない。
しかし、それ以上に気になることがあった。
(“悪役令嬢”という噂がこれ以上広まれば、私の破滅フラグがますます確実なものになるわ)
自分の足元に迫る影を感じながら、何とか先手を打つ方法を模索していた。そのとき――
「おや、また会ったね。僕がここにいるのも運命かな?」
聞き覚えのある軽い声が、廊下の奥から響いてきた。黒いコートを羽織ったリシャールが、壁にもたれながらこちらを見ていた。
「……またあなた?」
「まるで迷惑そうな顔だね。でも残念、僕は暇人だから、しばらくこの学園にいるよ」
彼の飄々とした態度に、レティシアはため息をついた。
「そうですか。では、せいぜい好きに過ごしてください。ただし、私には関わらないで」
「関わらない? それは無理な相談だな」
リシャールは軽く肩をすくめると、興味深そうに彼女を見つめた。
「君には興味があるからね。なぜだかわかるかい?」
「……知りませんし、知りたくもありません」
「そう言うと思った。でもね、君が何かを隠しているのは、誰の目にも明らかだ」
その言葉に、レティシアは無意識に眉をひそめた。
「何を言っているの? 私は何も隠してなんか――」
「なら、君がどうして“悪役令嬢”と呼ばれているのか、君自身は知っているのかい?」
リシャールの目はいつになく真剣だった。その視線に射抜かれるように、レティシアは思わず言葉を飲み込む。
「君は舞台の“悪役”だ。でも、その舞台に引きずり出される理由が何か、君は知るべきだと思うよ」
昼休み、レティシアは一人で庭園の奥にある隠れ家のようなベンチに腰を下ろしていた。リシャールの言葉が、頭の中で繰り返される。
(舞台に引きずり出される理由……?)
考えてみれば、この世界で「悪役令嬢」という烙印を押されたのは、演劇の影響だけではない。自分の婚約破棄も、ヒロインをいじめたという噂も、すべてが誰かの手で仕組まれたように感じられる。
だが、誰が? なぜ? 答えは霧の中だった。
「こんなところで一人で考え込むなんて、君らしくない」
背後から再び声が響く。振り返ると、そこにはアルフォンス・グレイストーン――王太子であり、かつての婚約者の姿があった。
「……あなたにそんなことを言われる筋合いはありません」
レティシアは冷ややかに応じた。だが、アルフォンスは眉を寄せながらも、何か言いたげな様子で立ち尽くしている。
「レティシア、お前が何をしているのか、正直に言え。お前を狙う動きがある。それを知っていて、動いているのか?」
その問いに、レティシアは少しの間、答えるべきか否かを迷った。だが、結局言葉を選ぶことにした。
「私は何もしていません。ただ、破滅を避けるために生き延びたいだけです」
「破滅だと……?」
アルフォンスの目が困惑に揺れた。その時、会話を遮るように、リシャールが木々の陰から姿を現した。
「君たち、本当に仲が悪いのか、それとも悪ぶっているだけなのか?」
「リシャール!」
レティシアが思わず声を上げると、彼は悪びれた様子もなく近づいてきた。
「レティシアが何をしているかだって? 王太子殿下、それを知るのは君の務めではないだろう」
「……お前は一体何者だ?」
アルフォンスが鋭い目で問い詰めるが、リシャールは軽く笑い、肩をすくめる。
「僕はただの傍観者さ。でも、一つだけ言っておこう。君たちが知らないうちに、この国は少しずつ動き出している」
リシャールのその一言に、二人の視線が交錯する。
「何が……動いていると言うの?」
レティシアの問いかけに、リシャールは軽く微笑み、低い声で答えた。
「君たちの舞台――いや、この“世界”そのものだよ」
その言葉が、二人に不穏な影を落とした。
しかし、それ以上に気になることがあった。
(“悪役令嬢”という噂がこれ以上広まれば、私の破滅フラグがますます確実なものになるわ)
自分の足元に迫る影を感じながら、何とか先手を打つ方法を模索していた。そのとき――
「おや、また会ったね。僕がここにいるのも運命かな?」
聞き覚えのある軽い声が、廊下の奥から響いてきた。黒いコートを羽織ったリシャールが、壁にもたれながらこちらを見ていた。
「……またあなた?」
「まるで迷惑そうな顔だね。でも残念、僕は暇人だから、しばらくこの学園にいるよ」
彼の飄々とした態度に、レティシアはため息をついた。
「そうですか。では、せいぜい好きに過ごしてください。ただし、私には関わらないで」
「関わらない? それは無理な相談だな」
リシャールは軽く肩をすくめると、興味深そうに彼女を見つめた。
「君には興味があるからね。なぜだかわかるかい?」
「……知りませんし、知りたくもありません」
「そう言うと思った。でもね、君が何かを隠しているのは、誰の目にも明らかだ」
その言葉に、レティシアは無意識に眉をひそめた。
「何を言っているの? 私は何も隠してなんか――」
「なら、君がどうして“悪役令嬢”と呼ばれているのか、君自身は知っているのかい?」
リシャールの目はいつになく真剣だった。その視線に射抜かれるように、レティシアは思わず言葉を飲み込む。
「君は舞台の“悪役”だ。でも、その舞台に引きずり出される理由が何か、君は知るべきだと思うよ」
昼休み、レティシアは一人で庭園の奥にある隠れ家のようなベンチに腰を下ろしていた。リシャールの言葉が、頭の中で繰り返される。
(舞台に引きずり出される理由……?)
考えてみれば、この世界で「悪役令嬢」という烙印を押されたのは、演劇の影響だけではない。自分の婚約破棄も、ヒロインをいじめたという噂も、すべてが誰かの手で仕組まれたように感じられる。
だが、誰が? なぜ? 答えは霧の中だった。
「こんなところで一人で考え込むなんて、君らしくない」
背後から再び声が響く。振り返ると、そこにはアルフォンス・グレイストーン――王太子であり、かつての婚約者の姿があった。
「……あなたにそんなことを言われる筋合いはありません」
レティシアは冷ややかに応じた。だが、アルフォンスは眉を寄せながらも、何か言いたげな様子で立ち尽くしている。
「レティシア、お前が何をしているのか、正直に言え。お前を狙う動きがある。それを知っていて、動いているのか?」
その問いに、レティシアは少しの間、答えるべきか否かを迷った。だが、結局言葉を選ぶことにした。
「私は何もしていません。ただ、破滅を避けるために生き延びたいだけです」
「破滅だと……?」
アルフォンスの目が困惑に揺れた。その時、会話を遮るように、リシャールが木々の陰から姿を現した。
「君たち、本当に仲が悪いのか、それとも悪ぶっているだけなのか?」
「リシャール!」
レティシアが思わず声を上げると、彼は悪びれた様子もなく近づいてきた。
「レティシアが何をしているかだって? 王太子殿下、それを知るのは君の務めではないだろう」
「……お前は一体何者だ?」
アルフォンスが鋭い目で問い詰めるが、リシャールは軽く笑い、肩をすくめる。
「僕はただの傍観者さ。でも、一つだけ言っておこう。君たちが知らないうちに、この国は少しずつ動き出している」
リシャールのその一言に、二人の視線が交錯する。
「何が……動いていると言うの?」
レティシアの問いかけに、リシャールは軽く微笑み、低い声で答えた。
「君たちの舞台――いや、この“世界”そのものだよ」
その言葉が、二人に不穏な影を落とした。
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