悪役令嬢の破滅フラグ?転生者だらけの陰謀劇!勝者は誰だ

藤原遊

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次の日の朝、学園の門をくぐると、いつにも増してざわついた空気が広がっていた。生徒たちが三々五々、噂話に興じている。

「また“悪役令嬢”が何か仕掛けたらしいわよ」

「ええ、平民の商人に圧力をかけたって……」

「噂によると、あのリシャールという男も仲間らしいわ」

レティシアは足を止め、聞き捨てならない言葉に眉を寄せた。リシャールの名前まで出てくるとなると、この噂は単なる偶然ではない。

(これは、誰かが意図的に広めている……)

その誰かの姿を思い浮かべた瞬間、背後から聞き慣れた声がした。

「おや、僕が“悪役令嬢”の共犯者になっているとは知らなかったな」

振り返ると、いつものように余裕の笑みを浮かべたリシャールが立っていた。まるで自分が噂の発端であることを楽しんでいるかのようだ。

「あなた、何をしたの?」

「何もしていないよ。ただ、君が注目を集めるのは避けられないことだろう?」

リシャールは肩をすくめ、興味深げに彼女を見つめた。

「君を“悪役”に仕立て上げる動きが加速している。それだけのことだ」

「……それを助けるつもりはないの?」

「助けるかどうかは、君がどう動くか次第だ」

レティシアは彼の飄々とした態度に軽い苛立ちを覚えたが、すぐに冷静さを取り戻す。

「……いいわ。あなたの協力を期待しないでおく」

その言葉に、リシャールは少しだけ目を細めた。

「期待しなくてもいい。ただ、君を見ているのは僕だけじゃない」

「どういう意味?」

「君にはもう少し自覚を持ってほしいんだ。君が舞台に立つ存在だということを」

その言葉の意味を問う前に、リシャールは踵を返してその場を立ち去った。

午後の講義の後、レティシアは学園の中庭でアルフォンスと再び顔を合わせた。

「話がある」

アルフォンスはいつになく真剣な表情をしていた。その目は、彼女が拒否する隙を与えないほど強い意志に満ちている。

「お前を陥れようとしている者がいる。その動きがどんどん広がっている」

「それは知っているわ。でも、だからと言って私がどうにかできるわけじゃない」

「違う。お前自身がこの状況を変える力を持っている。だから協力しろと言った」

レティシアは彼の言葉に小さく息を吐いた。

「力なんて……そんなものが私にあるのかしら」

「ある。だからこそ、お前を“悪役”に仕立て上げる者たちがいるんだ」

アルフォンスの言葉には確信があった。彼女をただ責めるためではなく、何かを訴えかける真剣な響きがある。

「協力するわ。ただし、私の条件を聞いてもらうことが前提よ」

「条件だと?」

「ええ。私が“悪役令嬢”の汚名を着せられたまま終わることは絶対に許さない。それを回避するために全力を尽くしてもらうわ」

アルフォンスは短く頷いた。

「当然だ。お前の名誉を回復させることも、私の役目だ」

その言葉に、レティシアの胸には微かだが信頼の芽生えが生まれていた。

その夜、レティシアは邸宅の書斎で資料を広げていた。

(誰が噂を広め、誰がその影で糸を引いているのか……)

情報を集める中で浮かび上がったのは、ディアナ・ローレンスという名前だった。華やかな美貌と、平民出身の者にも広く支持される優しい微笑み――その裏に何かを隠しているのではないか。

(彼女が黒幕……?)

直感はそう告げているが、確証がない。だが、もしそれが事実であれば、ディアナが次に動くのはいつなのか。

そのとき、扉をノックする音がした。

「お嬢様、緊急の知らせです」

使用人のクララが慌ただしく入ってくる。その表情から、ただならぬ事態が起きたことが伝わってきた。

「どうしたの?」

「ディアナ・ローレンス様が……学園の庭園で何者かに襲われたそうです!」

その報せに、レティシアは瞬時に思考を巡らせる。

(襲われた? それとも、自作自演?)

ディアナを襲う理由が何なのか、真相を突き止めるために、彼女はすぐに動き出すことを決意した。

レティシアが邸宅を飛び出し、学園に駆けつけたとき、すでに夜の帳が降りていた。庭園には学園の衛兵や教師たちが集まり、緊迫した空気が漂っている。

「レティシア様、こちらに!」

声をかけてきたのは、学園の教師の一人だった。彼の案内で事件現場に向かうと、そこには血の気の引いた顔で震えるディアナが座り込んでいた。

「ディアナ様、大丈夫ですか?」

レティシアがそう声をかけると、ディアナはか細い声で答えた。

「……何者かに襲われました。でも、誰がなぜこんなことを……」

その震えた声には、恐怖だけでなく、どこか演技のような響きも感じられる。だが、今はその真偽を確かめる時間はない。

(これが彼女の仕掛けた罠だとしたら……何が目的?)

レティシアの胸には新たな疑問が渦巻く中、夜空の下で陰謀の影がますます濃くなりつつあった。
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