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庭園での一件から数日が経ったが、学園内では依然としてディアナ・ローレンスが襲われた事件が話題の中心だった。
「誰がディアナ様を襲ったのかしら……」
「やっぱり、“悪役令嬢”の仕業なんじゃない?」
「ええ、彼女が関わっているって聞いたわ」
学園内に飛び交う噂の矛先は、やはりレティシアに向けられていた。根拠のない話でも、彼女が“悪役令嬢”という烙印を押されている以上、疑いがかけられるのは避けられない。
(これも、彼女の狙いなのかもしれない……)
レティシアはディアナの顔を思い浮かべた。彼女の震えた声と怯えた仕草が、本当に恐怖から来たものなのか、それとも作り物なのか――それを見極める術がないのがもどかしい。
「考え込んでいるね。まるで君が何かを仕掛けたみたいだ」
いつもの軽口を叩きながら、リシャールが隣に現れた。レティシアは眉をひそめ、彼を一瞥する。
「あなたには関係のないことよ」
「そうでもないさ。僕も君がディアナを襲ったとは思っていないけど、君を疑う声があるのは確かだ」
「……だから何?」
「だから、君にはその疑惑を晴らす権利がある」
リシャールは飄々とした態度を崩さないまま、意味深な言葉を続けた。
「そして、君がそれを晴らすためには――真実を暴く必要がある」
レティシアはその言葉に反論しようとしたが、彼の目の奥に宿る真剣さに気づき、言葉を飲み込んだ。
その夜、レティシアは邸宅の書斎で再び資料を広げていた。ディアナが襲われた理由、そして彼女を狙う者が何を目的としているのか――その答えを探るためだ。
だが、どんなに考えても腑に落ちない。
(私を悪役に仕立て上げようとしている人間がいるのに、ディアナを襲う意味がない)
何かが噛み合わない。それが気になって仕方がなかった。
そのとき、窓をノックする音がした。
「誰……?」
振り返ると、月明かりに照らされたリシャールの顔が見えた。彼は片手を軽く振りながら、悪びれた様子もなく微笑んでいる。
「こんな夜中に訪ねてくるなんて、非常識だと思わない?」
窓を開けてそう言うと、リシャールは軽く肩をすくめた。
「非常識なことくらい、わかっているさ。でも、君が何をしているか気になってね」
「……だからって、こんな時間に来る必要はないでしょう」
「君が追い詰められているんじゃないかと心配してさ」
その言葉に、レティシアは眉を寄せた。
「私を心配? あなたが?」
「もちろん。君は僕にとっても、面白い存在だからね」
彼の言葉がどこまで本気なのか分からない。だが、その態度に僅かながら心がほぐれるのを感じた。
「……なら、少しだけ聞きたいことがあるの」
レティシアはリシャールを室内に招き入れ、書斎の椅子に腰を下ろした。
「ディアナが襲われた理由、あなたはどう思う?」
リシャールはしばらく考える素振りを見せた後、静かに答えた。
「彼女自身が仕組んだ可能性が高いね」
その直球の答えに、レティシアは目を見開いた。
「自作自演だと?」
「そうだ。彼女はこの事件を通じて、自分を“ヒロイン”のように見せるための舞台を作りたかったんじゃないかな」
「……そんなことをして何の意味があるの?」
「君を完全に“悪役”に仕立て上げるためさ」
リシャールの言葉に、レティシアの胸に冷たいものが走る。もしそれが事実なら、ディアナはただの被害者ではなく、もっと恐ろしい存在だということになる。
「でも、それを証明するには……」
「証拠が必要だ。君がディアナの罠にかからないよう、慎重に動く必要がある」
リシャールの言葉に、レティシアは小さく頷いた。
「分かったわ。ありがとう」
「感謝なんていらないさ。ただ、僕が君の味方だということだけは覚えておいてくれ」
そう言って立ち上がったリシャールの後ろ姿を見送りながら、レティシアの心には新たな決意が芽生えていた。
次の日、レティシアは意を決して、ディアナに直接会いに行った。
学園の廊下で偶然を装い声をかける。
「ディアナ様、少しお話しできませんか?」
ディアナは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに微笑みを浮かべた。
「もちろんよ。どうしたの?」
その穏やかな声に違和感を覚えつつも、レティシアは笑顔を返した。
「先日の事件について、いくつかお伺いしたいことがあって」
「事件のこと……?」
「ええ。どうしてディアナ様が狙われたのか、その理由が知りたいんです」
ディアナの瞳が一瞬だけ揺れた。それを見逃さずに、レティシアは言葉を続ける。
「あなたが標的にされるなんて、おかしいと思いませんか?」
ディアナは短く息を吐き、微笑みを浮かべた。
「分からないわ。でも、誰かが私を憎んでいたとしても、仕方のないことかもしれないわね」
その言葉には、どこか計算された響きがあった。
(やっぱり、この人……何かを隠している)
レティシアはそう確信しながらも、表情には出さず、静かにディアナの言葉を聞き続けた。
その日、ディアナと別れた後、レティシアは再びリシャールに相談を持ちかけた。
「彼女、本当に自分で仕組んだ可能性があるわ」
「だろうね。君も、君の戦いを始める時が来たということさ」
リシャールの言葉に、レティシアの瞳に揺るぎない決意が宿った。
(私がこの舞台を動かす――“悪役令嬢”ではなく、私自身の意志で)
「誰がディアナ様を襲ったのかしら……」
「やっぱり、“悪役令嬢”の仕業なんじゃない?」
「ええ、彼女が関わっているって聞いたわ」
学園内に飛び交う噂の矛先は、やはりレティシアに向けられていた。根拠のない話でも、彼女が“悪役令嬢”という烙印を押されている以上、疑いがかけられるのは避けられない。
(これも、彼女の狙いなのかもしれない……)
レティシアはディアナの顔を思い浮かべた。彼女の震えた声と怯えた仕草が、本当に恐怖から来たものなのか、それとも作り物なのか――それを見極める術がないのがもどかしい。
「考え込んでいるね。まるで君が何かを仕掛けたみたいだ」
いつもの軽口を叩きながら、リシャールが隣に現れた。レティシアは眉をひそめ、彼を一瞥する。
「あなたには関係のないことよ」
「そうでもないさ。僕も君がディアナを襲ったとは思っていないけど、君を疑う声があるのは確かだ」
「……だから何?」
「だから、君にはその疑惑を晴らす権利がある」
リシャールは飄々とした態度を崩さないまま、意味深な言葉を続けた。
「そして、君がそれを晴らすためには――真実を暴く必要がある」
レティシアはその言葉に反論しようとしたが、彼の目の奥に宿る真剣さに気づき、言葉を飲み込んだ。
その夜、レティシアは邸宅の書斎で再び資料を広げていた。ディアナが襲われた理由、そして彼女を狙う者が何を目的としているのか――その答えを探るためだ。
だが、どんなに考えても腑に落ちない。
(私を悪役に仕立て上げようとしている人間がいるのに、ディアナを襲う意味がない)
何かが噛み合わない。それが気になって仕方がなかった。
そのとき、窓をノックする音がした。
「誰……?」
振り返ると、月明かりに照らされたリシャールの顔が見えた。彼は片手を軽く振りながら、悪びれた様子もなく微笑んでいる。
「こんな夜中に訪ねてくるなんて、非常識だと思わない?」
窓を開けてそう言うと、リシャールは軽く肩をすくめた。
「非常識なことくらい、わかっているさ。でも、君が何をしているか気になってね」
「……だからって、こんな時間に来る必要はないでしょう」
「君が追い詰められているんじゃないかと心配してさ」
その言葉に、レティシアは眉を寄せた。
「私を心配? あなたが?」
「もちろん。君は僕にとっても、面白い存在だからね」
彼の言葉がどこまで本気なのか分からない。だが、その態度に僅かながら心がほぐれるのを感じた。
「……なら、少しだけ聞きたいことがあるの」
レティシアはリシャールを室内に招き入れ、書斎の椅子に腰を下ろした。
「ディアナが襲われた理由、あなたはどう思う?」
リシャールはしばらく考える素振りを見せた後、静かに答えた。
「彼女自身が仕組んだ可能性が高いね」
その直球の答えに、レティシアは目を見開いた。
「自作自演だと?」
「そうだ。彼女はこの事件を通じて、自分を“ヒロイン”のように見せるための舞台を作りたかったんじゃないかな」
「……そんなことをして何の意味があるの?」
「君を完全に“悪役”に仕立て上げるためさ」
リシャールの言葉に、レティシアの胸に冷たいものが走る。もしそれが事実なら、ディアナはただの被害者ではなく、もっと恐ろしい存在だということになる。
「でも、それを証明するには……」
「証拠が必要だ。君がディアナの罠にかからないよう、慎重に動く必要がある」
リシャールの言葉に、レティシアは小さく頷いた。
「分かったわ。ありがとう」
「感謝なんていらないさ。ただ、僕が君の味方だということだけは覚えておいてくれ」
そう言って立ち上がったリシャールの後ろ姿を見送りながら、レティシアの心には新たな決意が芽生えていた。
次の日、レティシアは意を決して、ディアナに直接会いに行った。
学園の廊下で偶然を装い声をかける。
「ディアナ様、少しお話しできませんか?」
ディアナは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに微笑みを浮かべた。
「もちろんよ。どうしたの?」
その穏やかな声に違和感を覚えつつも、レティシアは笑顔を返した。
「先日の事件について、いくつかお伺いしたいことがあって」
「事件のこと……?」
「ええ。どうしてディアナ様が狙われたのか、その理由が知りたいんです」
ディアナの瞳が一瞬だけ揺れた。それを見逃さずに、レティシアは言葉を続ける。
「あなたが標的にされるなんて、おかしいと思いませんか?」
ディアナは短く息を吐き、微笑みを浮かべた。
「分からないわ。でも、誰かが私を憎んでいたとしても、仕方のないことかもしれないわね」
その言葉には、どこか計算された響きがあった。
(やっぱり、この人……何かを隠している)
レティシアはそう確信しながらも、表情には出さず、静かにディアナの言葉を聞き続けた。
その日、ディアナと別れた後、レティシアは再びリシャールに相談を持ちかけた。
「彼女、本当に自分で仕組んだ可能性があるわ」
「だろうね。君も、君の戦いを始める時が来たということさ」
リシャールの言葉に、レティシアの瞳に揺るぎない決意が宿った。
(私がこの舞台を動かす――“悪役令嬢”ではなく、私自身の意志で)
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