悪役令嬢の破滅フラグ?転生者だらけの陰謀劇!勝者は誰だ

藤原遊

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学園の朝はいつもより静かだった。けれど、その静けさの中には緊張が潜んでいるように感じられた。ディアナが襲われた事件は、表向きは学園の衛兵たちの調査で解決に向かっていることになっていたが、噂が途絶えることはない。

レティシアはその空気を感じながら廊下を歩いていた。ディアナとの会話から彼女が何かを隠している確信を得たものの、具体的な証拠はまだ掴めていない。それどころか、自分自身の立場がさらに危うくなりつつあるのを感じていた。

(このままじゃ、いつか“悪役”という烙印が完全に私を追い詰めるわ)

ため息をつきかけたそのとき、不意に目の前に黒い影が現れた。

「おや、そんな難しい顔をしていると、君の美貌が台無しだよ」

リシャールだ。彼は相変わらず飄々とした態度で、まるで何事もなかったかのようにレティシアの隣に立った。

「相変わらず気楽そうね」

「気楽に見える? それは光栄だ。でも、僕も君以上に頭を悩ませているんだよ」

リシャールはそう言いながら、周囲を見渡した。

「それにしても、学園全体が君を注視しているようだね。この状況、どうするつもり?」

「決まっているでしょう。私はただ、自分の破滅を防ぐだけ」

「そのためには、もっと積極的に動くべきだと思うけど?」

リシャールの提案に、レティシアは一瞬だけ眉をひそめた。だが、彼の言葉に一理あることを認めざるを得ない。

「具体的には?」

「まずは、僕が調べたことを共有しよう」

彼は軽く手招きをして、二人は廊下の端にある隅のスペースに移動した。リシャールは声を潜めながら話し始めた。

「ディアナが何者かに襲われた――少なくとも表向きはね。でも、その裏で彼女の名前が急激に広がっているのを知っている?」

「名前が広がる?」

「彼女が“純粋無垢な被害者”として噂されているんだよ。しかも、その噂を広めているのが平民層に支持を持つ演劇関係者たちだ」

「演劇……」

レティシアの脳裏に、今市井で流行している「誇り高きヒロイン」という作品のことが浮かぶ。

「演劇で“ヒロイン”としての評価を高めるのは、君を“悪役令嬢”として貶める手段の一つでもある」

リシャールの言葉に、レティシアは小さく息を呑んだ。すべてが繋がりつつある。自分を悪役に仕立て上げるための噂、そしてディアナの“被害者”としての立場。

「……彼女は何を狙っているの?」

「それを知るには、もっと深く調べる必要があるね。君はどうする?」

リシャールの目がまっすぐにレティシアを見つめる。その瞳には、彼女に試すような光が宿っていた。

「決まっているわ。私も動く」

レティシアの言葉に、リシャールは薄く微笑んだ。

「その意気だ」

その夜、レティシアは邸宅の庭園を歩いていた。冷たい夜風が頬を撫でる中、考えを巡らせていた。

(ディアナが私を悪役に仕立て上げる理由……彼女の目的は何?)

そこへ、邸宅の外から馬車の音が聞こえた。誰かが訪問してきたようだ。使用人のクララが慌ただしく駆け寄ってくる。

「お嬢様、王太子殿下がお越しです」

「アルフォンスが?」

突然の訪問に驚きながらも、レティシアは庭の入口へ向かった。

そこには、普段よりも険しい表情をしたアルフォンスが立っていた。彼の背筋はいつも以上にまっすぐで、その瞳には深い覚悟が宿っている。

「遅い時間に悪い」

アルフォンスは短く詫びると、レティシアの目をじっと見つめた。

「話がある。ディアナについてだ」

その名前に、レティシアは緊張を隠せなかった。

「……ディアナがどうかしたの?」

「調査の結果、彼女に関するいくつかの不審な動きが明らかになった」

アルフォンスはそう言うと、真剣な表情で言葉を続けた。

「彼女が平民の中で支持を得るために、演劇関係者と接触している証拠が見つかった」

「演劇……」

それはリシャールが言っていたことと一致していた。アルフォンスの話は、彼女が抱いていた疑念をさらに確信へと変えていく。

「お前も気づいているだろう。彼女はお前を利用している。それだけじゃない――この国そのものを揺るがすつもりだ」

その言葉に、レティシアは短く息を吐いた。

「……わかったわ。私も協力する」

「いい判断だ」

アルフォンスは満足げに頷いた。その表情には、かつての婚約者としての気遣いではなく、王太子としての責任感が滲んでいた。

(ディアナ……あなたが本当に黒幕なら、私はあなたを止める)

レティシアの胸の中で新たな決意が燃え上がる。その決意が、物語をさらに大きく動かしていくのだった。
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