悪役令嬢の破滅フラグ?転生者だらけの陰謀劇!勝者は誰だ

藤原遊

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広間の空気は極限まで張り詰めていた。ディアナとレティシアが向かい合い、互いの視線が交錯する。その間に、魔導具は不気味な光を放ち続け、周囲の人々を静かに支配し始めていた。

「どうして私を止めようとするのです?」

ディアナの声は静かだが、その底には激しい怒りと揺るぎない信念が宿っていた。

「この国の平民たちを救うため、私はここまでやってきたのです。力を使わずに何ができると言うのですか?」

「力ではなく言葉よ!」

レティシアの声が広間に響き渡る。その声には確固たる意志が込められていた。

「あなたの理想は分かるわ。でも、人々を力で従わせてしまったら、それはただの支配よ! あなたが望む平等も自由も、決して実現できない!」

ディアナは短く息を吐き、鋭い目でレティシアを睨みつけた。

「そんな甘い理想論で、この国の構造を変えられるとでも思うのですか? 私は違います。私は、この手でこの国を変えると決めたのです!」

そう言うと、ディアナは剣を抜き、レティシアに向けて構えた。

「なら、あなたに止められるか試してみなさい!」

その光景に広間がざわつく。貴族たちや平民たちは二人の対峙を見守るしかなかった。

(剣を抜くなんて……ディアナも、自分を追い込んでいるのね。でも、私も負けられない)

レティシアの手が自然と剣の柄を握り締める。剣術を学び始めた幼い日の記憶が、ふいに脳裏をよぎった。

「剣を握りなさい、レティシア」

中庭の訓練場で、父の厳しい声が響く。レティシアは嫌々ながらも剣を手に取り、その冷たさに顔をしかめた。

「お父様、私に剣術なんて必要ありませんわ。そんなの、護衛の方々に任せれば――」

「護衛はいつもお前のそばにいるわけではない。貴族であるからこそ、己の身を守る術を持つべきだ」

父のその言葉はどこか冷たく感じられたが、その奥にある真剣さを感じ取れないほど幼くはなかった。

それから始まった剣術の訓練は、毎日が苦しいものだった。構え方、振り方、攻防の基礎を延々と繰り返す。小さな手に食い込む剣の重みと、その度に流れる汗が嫌でたまらなかった。

「どうしてこんなことを……」

ある日、思わず零した言葉に、父は短く答えた。

「この国は穏やかに見えて、決して平和ではない。身を守れない者は、大切なものも守れない。それだけだ」

(守れない――大切なものを?)

その時は納得できなかったが、その言葉がレティシアの中に根付き、成長するにつれて彼女の心に変化をもたらしていった。

「……その剣、本気のつもりね」

回想から現実に戻り、レティシアはディアナの構えた剣をじっと見つめた。その手の内には確かな決意が握られている。

(私も本気で応えなくては……!)

剣を抜き放ち、レティシアはディアナに向き合った。

「あなたの覚悟、確かに受け取ったわ。でも、その力は、あなたの望みを壊してしまうだけよ!」

ディアナの目がわずかに揺れる。その一瞬を見逃さず、レティシアは前へと踏み込む。

二人の剣が交錯し、激しい音が広間に響き渡る。ディアナの剣筋は鋭く、攻撃の一つ一つに力がこもっていた。

(平民の中で生き抜いた経験があるから、この剣には実戦の技が宿っている……!)

だが、レティシアも負けていない。貴族の教養として学んできた剣術は、美しさと強さを兼ね備えたものだった。

「ディアナ、あなたは確かに強いわ」

剣を交わしながら、レティシアは声を張り上げる。

「でも、その力で人々を押さえつけるなら、あなたの理想は偽物になってしまう!」

「黙りなさい!」

ディアナの一撃が鋭く振り下ろされる。しかし、その剣筋にはどこか迷いが見えた。

(迷っている……?)

そのわずかな揺らぎを感じ取ったレティシアは、言葉を重ねる。

「あなたが本当に平等と自由を望むなら、力ではなく言葉で示しなさい! それができないなら、あなたは自分の理想を裏切ることになる!」

「……私は!」

ディアナの剣が揺れ、動きが止まる。その目に浮かぶ迷いは明らかだった。

その隙を突き、レティシアは魔導具に向かって駆け出した。

「これで終わりよ!」

手にした剣で魔導具を一閃する。強烈な光と音が広間を包み込む中、魔導具は力を失い、静かに沈黙した。

ディアナはその場に膝をつき、剣を手放した。その顔には涙が浮かんでいる。

「私は……間違っていたのでしょうか」

「間違いではないわ。ただ、やり方が違っていただけ」

レティシアは優しく答え、彼女に手を差し伸べた。

「もう一度やり直しましょう。あなたの理想を正しい形で実現するために」

ディアナは震える手でその手を握り返し、小さく頷いた。

こうして、ディアナの計画は終わりを迎えた。広間には静けさが戻り、貴族と平民たちはそれぞれの新たな未来を模索し始めていた。

(私はただの“悪役令嬢”じゃない。私は私の物語を生きる――)

新たな決意を胸に、レティシアは未来を見据えるのだった。
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