戦乙女の選ぶ道

序章

燃え広がる夜空に、オレンジ色の閃光が走る。それは遠く離れた日本本土からも見えるほどの激しい戦火だった。

2XXX年。世界は、かつての大国間のバランスが崩れ、幾度目かの戦争を迎えていた。南西諸島では、隣国Aが資源確保を目的に侵攻を開始。島嶼部の一部が占拠され、日本政府はその奪還を目的とした防衛出動を命じた。自衛隊は連携した作戦を展開し、その一翼として「村落C」の奪還が命じられた。

佐藤瑠衣、陸上自衛隊の二尉として現地に派遣されていた彼女は、奪還部隊の先鋒を務める小隊を率いていた。この作戦の成否は、後続部隊の進軍を支える鍵となる。任務の達成は必須だった。

「佐藤二尉、目標地点まで五分です！」

副官の声がヘルメット越しに響く。輸送機内では十数人の隊員が無言で待機していた。すでに全員、これがどれだけ危険な任務であるかを理解している。それでも、誰も弱音を吐くことはない。

瑠衣は手元の地図を確認し、周囲に声をかけた。

「再度確認だ。目標地点である村落Cを制圧し、敵の後方支援ラインを遮断する。それが私たちの任務だ。この作戦の難易度は高いが、成功すれば本隊が圧力をかけられる。全員、冷静に動け。」

頷く隊員たちの顔には覚悟が宿っていた。彼らは皆、過酷な訓練を共にしてきた仲間だ。任務の難しさを理解しながらも、自分たちの役割を果たそうとしている。

輸送機の後部ランプがゆっくりと開いた。冷たい夜風が吹き込み、黒煙が立ち込める島影が見える。目標地点の村落Cは、火の手が上がり、閃光が暗闇を切り裂いていた。戦場の音が耳に届く。砲火、爆発、断末魔――すべてがこの島を包み込んでいた。

「各自、降下準備に入れ！」瑠衣の号令が響き渡る。

輸送機から飛び降りた瞬間、夜の空気が身体を包む。落下する間にも、対空砲火が交差し、赤い閃光が視界を埋め尽くす。どれほど訓練を積んでいても、この瞬間は決して慣れることはない。それでも瑠衣は落下速度を調整しながら視界を見据えた。

着地の衝撃が全身を伝い、パラシュートを素早く切り離す。周囲には隊員たちの無事な姿が確認できる。地図を確認し、即座に行動を指示した。

「全員集合！第1地点へ進軍を開始する！」

隊員たちは陣形を整え、迅速に動き始めた。作戦通り、目標地点へ向けた進軍は順調に進んでいる。だが、その静けさは突然破られた。轟音と共に敵の砲火が彼らを襲う。爆発が大地を揺るがし、土煙が上がる。

「被害は！？」

瑠衣の声が飛ぶ中、副官が応じた。「負傷2名！まだ進軍可能です！」

彼女は即座に判断を下す。「このまま進む！目標地点の制圧を急げ！」

砲火が続く中でも、彼女の指揮の下、隊員たちは進軍を続けた。だが、目標地点が見え始めたその瞬間、敵の抵抗が一気に激化した。村落全体が火に包まれ、敵の重火器が集中して隊を狙っていた。

瑠衣は一瞬の判断で叫んだ。「私が先に進む！後方は援護しろ！」

彼女が率いる小隊は突撃し、敵の防衛線を突破するための戦闘が始まった。敵陣の中へ踏み込みながらも、彼女の視界は一瞬もぶれることはなかった。

砲火の激しさが増す中、彼女は隊員たちに撤退を命じる。

「ここは持たせる！全員、無傷で帰れ！」

敵の砲撃が轟き、視界が閃光に覆われる。その瞬間、全身が爆風に包まれ、意識が途切れた。