戦乙女の選ぶ道

藤原遊

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3章 紅蓮の将との邂逅

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ライナーは川沿いで挟撃を受けた部隊の混乱を静かに見つめていた。
手元に伝えられる報告書には、川の逆流による被害状況と、自軍の戦線が乱された理由が記されている。

「……やるじゃないか。」

静かに呟く彼の口元には、わずかな微笑が浮かんでいた。
この状況を見て、怒りを覚えるどころか、彼はむしろ興味を抱いていた。

敵軍――正確には、フィオラ・カイゼルン。彼女がどれほどの力量を持つのか、その片鱗を見せつけられたのだ。単なる戦略魔法使いではない。魔法の力を駆使しながらも、地形や敵の動きを読んで自軍を有利に導くその指揮能力。すべてが、彼の予想を上回っていた。

「……お前は、一体どこでその戦術を学んだ?」

彼は小さく息をつき、目を伏せる。

その夜、ライナーは自らの幕営で地図を広げていた。
次の一手をどう打つべきか――それを考えるため、彼は何度も状況を再現していた。

だが、頭の中をよぎるのは、川沿いでのフィオラの指揮ぶりだった。
正面からのぶつかり合いではなく、巧妙に誘導し、的確なタイミングで反撃に転じる。あの冷静さと判断力――そして、戦略魔法使いとしての実力。

「まさか、この短期間でここまでの指揮を……。」

彼は椅子に深く腰を下ろし、薄暗い天幕の天井を見上げた。
過去に数多の敵を倒してきたが、これほどの難敵と向き合うのは初めてだった。

「面白い。」

短く呟いたその言葉には、確かな熱が込められていた。

「……フィオラ・カイゼルン。次は、どう動く?」

一方、フィオラは勝利の余韻に浸ることなく、次の作戦の準備に追われていた。
川沿いの戦いは優勢に終わったが、それが決定打になるとは思えない。ライナー・フォルクスは簡単に退くような人物ではない――それを彼女は直感的に理解していた。

「この川を使った防衛線だけじゃ、次は持たないわ。」

地図を睨みながら彼女が呟くと、隣でロイドが首をかしげた。

「君はあれだけの戦果を挙げたばかりだ。もう少し自信を持ってもいいんじゃないか?」

「そういう問題じゃないの。」

フィオラは顔を上げ、ロイドを見た。

「彼は一つ一つの戦いを冷静に分析して、次に活かしてくるタイプの人間よ。たとえ一度勝てたとしても、それに固執していては次に負ける。」

その言葉に、ロイドも真剣な表情を浮かべた。
彼女の分析には確かに理がある。だが、フィオラの中にはもう一つの感情が混じっているのを感じ取った。

「それにしても……君、彼のことをずいぶんよく見てるな。」

ロイドの軽い言葉に、フィオラは思わず顔を赤らめた。
「そ、そんなことないわ。ただ、相手を知らなければ戦えないだけ。」

「まあ、そうだな。」

彼は笑いながら頷いたが、その瞳には微かな不安が浮かんでいた。
ライナーの存在が、フィオラの中で大きなものになりつつあることを、ロイドは感じ始めていたのだ。

翌朝、霧が薄く漂う戦場に再び緊張が走った。
敵軍の動きが徐々に活発化し、紅炎の術師団が前線に姿を現している。遠くから見える赤い旗印と、中心で構えるライナーの姿。フィオラはその方向を見据え、深く息を吸った。

「来るわね……。」

「俺たちも準備を整えよう。」

ロイドが剣を握り直し、兵士たちに指示を送る。
一方、フィオラはライナーの動きを注視していた。

「次はどんな手を使ってくるのかしら。」

その問いに答えるように、遠方から響く轟音が戦場を揺らした。
ライナーの魔法――いや、それ以上の何かが、彼女たちを試そうとしているようだった。
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