戦乙女の選ぶ道

藤原遊

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5章 本格侵攻

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夜明けと共に、北西の森林地帯は緊迫した空気に包まれた。
フィオラは前線の丘陵地帯から、その全貌を見渡していた。眼下には複雑な地形が広がり、深い森が自然の壁となって視界を遮っている。

「ここを制するためには、地形を最大限に活かすしかない……。」

彼女は自軍の布陣を見回しながら、静かに呟いた。
森の隙間には弓兵を潜ませ、主要なルートには魔法使いを配置してある。敵軍を中央の狭い谷へ誘い込み、その後に包囲を完成させる作戦だ。

「ただし……ライナーがそんな単純な罠にかかるとは思えない。」

フィオラの脳裏には、あの赤いマントを翻す彼の姿が浮かんでいた。
ライナーの戦術眼と冷徹な判断力――それを打ち破るためには、さらなる工夫が必要だった。

「フィオラ。」

背後からロイドの声がした。
振り返ると、彼が鋭い目で地図を見つめている。

「罠は上手く機能するかもしれないが、奴は本気でこちらを試してくるだろう。中央が崩されれば、全てが台無しになる。」

「ええ、だから中央に私が立つ。」

フィオラの言葉に、ロイドは驚いた表情を見せた。

「お前が直接……?」

「そう。私がここに立たなければ、この作戦は成立しないわ。」

彼女の目には強い意志が宿っていた。
ロイドはため息をつきながら剣の柄を握り直した。

「わかった。だが、俺が君の盾になる。どんなことがあっても、君を守る。」

「……ありがとう、ロイド。」

フィオラは静かに微笑み、彼に感謝の言葉を送った。
だが、その笑顔の奥には、一人の指揮官としての孤独が垣間見えた。

同じ頃、ライナーは森林地帯の入り口に立ち、静かに地形を見渡していた。
彼は部下に命じ、紅炎の術師団を複数の小隊に分け、慎重に進軍を進めていた。

「この森は、敵にとっても罠だ。だが、それを仕掛けたのがフィオラ・カイゼルンなら……こちらの動きも見抜かれている可能性がある。」

彼は短く息を吐き、部下に指示を送った。

「中央ルートをあえて突破する。しかし、右側面から別働隊を送り込み、後方を攪乱する準備を進めろ。」

「左右同時に攻めるのではなく、攪乱が先ですか?」

部下が疑問を口にすると、ライナーは頷いた。

「焦る必要はない。この戦場で必要なのは、相手の仕掛けを見極めることだ。」

「了解しました。」

部下たちは敬礼し、それぞれの持ち場へ散っていった。
ライナーは再び視線を森の奥へ向け、静かに呟いた。

「……君はどう動く、フィオラ。」

戦場の幕が上がった。
フィオラの部隊が森の中で防御陣形を整え、敵の進軍を待ち受けていた。木々の間を進む敵兵の足音が次第に大きくなり、緊張がピークに達していた。

「中央を突破しようとしている……!」

偵察兵の報告が届き、フィオラは即座に指示を出した。

「魔法部隊を前線に集中させて。中央を突破させるわけにはいかない!」

だが、その直後、右側面から敵の別働隊が姿を現した。
彼らは素早い動きでフィオラの部隊の補給線に迫りつつあった。

「側面……! やっぱり動いてきたわね。」

フィオラはすぐに予備部隊を側面に向かわせる指示を出した。
だが、その隙を狙うように、ライナーの本隊が中央突破を仕掛けてきた。

ライナーの姿が前線に現れた瞬間、フィオラの視線が彼に釘付けになった。
彼は炎を操り、冷静かつ的確に自軍を率いている。その姿は、まるで嵐の中心に立つような威圧感を放っていた。

「……来るなら、受けて立つ。」

フィオラは自ら馬を進め、魔力を練り上げた。
その手から放たれた水の波動が、ライナーの炎と激突し、戦場全体に熱気と冷気が交錯する霧を生み出した。

「お前の策は見事だ。」

霧の中から響くライナーの声に、フィオラは静かに答えた。

「でも、それを超えるのが貴方なんでしょう?」

その言葉に、ライナーは笑みを浮かべた。

「その通りだ。だが、お前も期待以上だな。」

激しい戦いが続く中、ロイドはフィオラの隣で剣を握り、彼女を守るために動いていた。
彼は霧の中で敵兵を次々に斬り伏せながら、ふとフィオラの横顔を見た。

「こんな戦場の中で……お前は一人で戦い続けるつもりか。」

彼の胸には、彼女への強い想いと、自分の無力感が交錯していた。
彼女を守りたい――それが彼の全てだった。
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