戦乙女の選ぶ道

藤原遊

文字の大きさ
33 / 60
5章 本格侵攻

しおりを挟む
フィオラの号令が響き渡り、丘陵地帯の全軍が動き出した。防御を固めながら敵を迎え撃つ形で布陣した部隊は、徐々にライナー軍との距離を詰めていく。戦場の空気が張り詰める中、彼女は周囲を見渡して状況を把握していた。

「まだ敵の本体が見えない……。これが陽動だとすれば、別働隊が動いている可能性もある。」

副官が報告に駆け寄ってきた。

「北東の谷に少数の敵部隊が確認されました!おそらく別働隊です!」

フィオラは地図を見つめながらすぐに指示を出した。

「北東には弓兵と少数の魔法使いを送り、距離を保ちながら牽制して。深入りはしないように。」

「了解しました!」

副官がその場を離れると、ロイドが馬を寄せてきた。

「奴らが本気で北東を狙っているようには見えない。ライナーの本体はやはり中央だろう。」

「ええ。だけど、それだけじゃない。何か裏がある気がするの。」

フィオラの目には不安が浮かんでいた。ライナーの戦術は常に予想を超えてくる。今回も何か仕掛けているはずだという直感が、彼女の胸を締め付けていた。

「心配するな。お前が指揮している限り、俺たちは崩れない。」

ロイドの声には力強さがあり、それがフィオラの不安を少しだけ和らげた。

「ありがとう、ロイド。あなたがいるだけで、私は……。」

その言葉を続ける前に、遠くで爆音が響いた。

「……始まったわね。」

フィオラは馬を駆け、前線へ向かった。

戦場では、紅炎の術師団が激しい攻撃を繰り出していた。彼らの魔法は丘陵地帯の防御壁を次々に破壊し、前進を続けている。フィオラはその光景を見て、素早く判断を下した。

「全員、第二防御ラインまで後退して!魔法部隊は遅滞戦術を展開して、時間を稼ぐのよ!」

兵士たちは彼女の指示に従い、秩序を保ちながら移動を開始した。混乱を最小限に抑えるその動きは、フィオラの冷静な指揮によるものだった。

「やっぱり……ライナーはここを狙っている。」

彼女が呟いたその時、紅炎の中から赤いマントが現れた。ライナーが自ら前線に立ち、剣を掲げて指示を送っている。

「彼が……ここにいる。」

フィオラの胸に緊張が走った。彼との再対決の時が来たのだ。

ライナーは前線を見渡しながら、静かに剣を下ろした。

「敵軍は秩序を保っている。さすがだ、フィオラ・カイゼルン。」

彼の声は低く、それでも部下たちにしっかりと届いていた。

「だが、彼女はまだ迷っている。この戦いが何を意味するのかを、本当には理解していない。」

ライナーは部下に目配せし、次の指示を出した。

「全軍、前進を続けろ。目標は第二防御ラインの突破だ。」

彼の指示で軍勢が動き出し、さらに激しい戦闘が繰り広げられた。

フィオラは第二防御ラインで兵士たちを鼓舞しながら、ライナーの動きを注視していた。彼が前線に立つことで敵軍の士気が高まっていることに気づく。

「彼を止めなければ、この戦いは終わらない……。」

彼女は魔力を練り上げ、再び水の波動を展開した。その勢いで敵軍の進軍を一時的に食い止める。

「ロイド、私が前に出るわ。」

「無茶だ!お前がここを離れれば、指揮が乱れる!」

「大丈夫。私がいなくても、ここを守れるだけの力はある。」

ロイドは反論しようとしたが、彼女の目の中に宿る強い意志を見て言葉を飲み込んだ。

「……分かった。でも、絶対に無茶をするな。」

フィオラは頷き、ライナーに向かって馬を駆け出した。

二人が再び相対する。
フィオラの魔力が水の槍となり、ライナーの炎の剣と激突する。互いの力がぶつかり合い、戦場全体がその余波に揺れる。

「君がここまで来るとはな。やはり、お前はただの指揮官ではない。」

ライナーの声には冷静さがあったが、その奥に何かを試すような響きがあった。

「私はこの戦争を終わらせたいだけ。あなたを止めるためにここにいる。」

「そうか……。だが、その望みを叶えるために、お前は何を犠牲にするつもりだ?」

彼の問いに、フィオラは一瞬答えられなかった。その隙を突いて、ライナーの炎が彼女に迫る。

「くっ……!」

フィオラは咄嗟に防御魔法を展開し、なんとか攻撃を防ぐ。だが、彼の言葉が彼女の胸に残り続けた。

「私は……。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...