戦乙女の選ぶ道

藤原遊

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5章 本格侵攻

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フィオラの魔力が頂点に達し、周囲の空気が緊張に満ちた。水の波がライナーの周囲を取り囲むように広がり、彼の炎を飲み込もうとしていた。だが、ライナーはまるでそれを楽しむかのように冷静な表情を崩さなかった。

「これがお前の覚悟か、フィオラ・カイゼルン。」

その声に、フィオラは目を細めながら答える。

「そうよ。私はこの戦いを終わらせるために全てを懸ける!」

ライナーは静かに剣を振り上げ、炎をさらに燃え上がらせた。彼の周囲に赤い光が渦を巻き、水と激しく衝突する。互いの力が均衡を保ち、一瞬だけ戦場が静まり返った。

その隙をついて、フィオラは全力の魔法を放った。
巨大な水の槍が形成され、ライナーの胸元を狙って一直線に飛び込む。

「これで……!」

だが、その槍はライナーの剣によって弾かれ、爆発的な蒸気が辺りを覆った。

「君の力は見事だ。だが、俺を倒すにはまだ足りない。」

蒸気の中から現れたライナーの姿に、フィオラの心が揺らいだ。その余裕、そして彼の目の奥に潜む何かが、ただの敵として割り切るにはあまりに複雑だった。

「ライナー……。あなたは一体、何を求めているの?」

その問いに、彼は初めて沈黙した。だが、次の瞬間には再び冷静な声で答える。

「俺が求めているのは、この戦場の向こうにある『真実』だ。」

彼の言葉に、フィオラはさらに問いを重ねようとしたが、その時ロイドの声が響いた。

「フィオラ、油断するな!」

振り向いた彼女の目に映ったのは、倒れたはずのロイドが剣を構えてライナーに立ち向かう姿だった。彼の足取りはまだ完全ではないが、その目には強い決意が宿っている。

「俺が奴の隙を作る。その間にお前が決めろ!」

ロイドの声に、フィオラは思わず頷いた。彼の言葉が、彼女の迷いを吹き飛ばした。

ロイドは剣を振るい、全力でライナーに迫った。
剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。ロイドは攻撃を続けながらも、フィオラのことを一瞬たりとも忘れなかった。

「俺が守るのは、お前の理想だ!」

その叫びが、フィオラの心に深く響いた。
彼女は再び魔力を練り上げ、ライナーの動きを止めるための一撃を準備した。

ライナーはロイドの攻撃をかわしながらも、どこか楽しげに彼を見つめていた。

「お前の覚悟は悪くない。だが、それだけでは戦場を変えることはできない。」

その言葉にロイドは答えた。

「それを変えるのは俺じゃない――フィオラだ!」

ロイドの叫びと共に、フィオラの魔力が爆発的に放たれた。
水の渦が巨大な槍となり、再びライナーに向かって飛び込む。

「これで終わりよ……!」

その声と共に、槍がライナーの炎を貫く。赤と青が交じり合い、戦場全体を飲み込むような衝撃波が広がった。

衝撃が収まった時、ライナーは膝をついて剣を支えに立ち上がっていた。
その目はどこか満足げで、敗北を受け入れているようにも見えた。

「……やはり、お前はただの指揮官ではない。」

ライナーは静かに言い、剣を収めた。

「この戦いは、お前の勝ちだ。だが、俺たちの戦いはまだ終わらない。」

彼の言葉に、フィオラは眉をひそめた。

「どういう意味……?」

「それを知るには、俺と同じ視点に立つ必要がある。その時が来るまで、俺は待っている。」

ライナーはそう言い残し、部下たちを連れてゆっくりと退却していった。

フィオラはその背中を見つめながら、彼の言葉の意味を噛みしめていた。

「私と同じ視点……?」

その問いの答えは、まだ彼女の中で見つかっていなかった。

ロイドが傷だらけの体を引きずりながら、彼女の隣に立った。

「終わったのか……?」

「ええ。少なくとも、今は。」

フィオラは彼に微笑みかけたが、その胸の中にはまだざわつくものが残っていた。

ロイドは彼女の表情を見て何かを感じ取ったが、何も言わず、ただそっと彼女の肩に手を置いた。

「お前が決めるべきことがあるのなら、俺は待つ。だが、何があってもお前を守る。それだけは変わらない。」

その言葉に、フィオラは静かに頷いた。
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