戦乙女の選ぶ道

藤原遊

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5章 本格侵攻

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フィオラは戦場から少し離れた丘の上で、静かに風に身を任せていた。
ロイドや兵士たちは撤退する敵を見送りながら、次の行動の準備を進めている。だが、彼女の心は戦場の熱気とは別の冷たい感覚に包まれていた。

「私と同じ視点……それがどういう意味なのか、分からない。」

ライナーの最後の言葉が、何度も頭の中で反響していた。
彼が求めているものは、ただの勝利や国益ではない。それを彼の目の奥に宿る何かが告げていた。

フィオラは手元の地図を見つめながら小さく息を吐いた。

「戦いが終わっても、これで全てが解決したわけじゃない。私たちが次に進むべき道を見つけないと……。」

その時、背後からロイドの声がした。

「フィオラ、少し休め。お前はここ数日、ずっと突っ走り続けている。」

彼は傷ついた体を押して彼女のそばに来た。
その顔には心配の色が浮かんでいる。

「ありがとう、ロイド。でも、私はまだ……。」

「お前がまだやるべきことを見つけていないのは分かる。けど、お前が倒れたら、それこそ誰も次の道を見つけられない。」

彼の言葉にフィオラは一瞬だけ目を閉じた。
ロイドの言う通りだった。自分が冷静でいなければ、部隊全体が不安定になる。だが、同時に彼女は感じていた。ライナーの真意を理解しなければ、この戦いは本当に終わらないのだと。

「ロイド、ありがとう。少しだけでも休むわ。でも、その後で話がしたいの。」

「話?」

ロイドは意外そうな表情を浮かべたが、すぐに頷いた。

「分かった。お前が休んだ後、どんな話でも聞く。」

彼女は微笑み、少しだけ心を緩めるために天幕へ向かった。

その夜、陣営の中央では戦いの総括が行われていた。
ロイドや副官たちが戦況を振り返りながら、次の行動について意見を交わしている。

「北部の防御を固める必要がある。隣国軍が再び攻めてくる可能性は十分にある。」

「補給路も気になります。この戦いで物資の消耗が激しい……。」

それぞれの声が交錯する中、フィオラが静かに口を開いた。

「確かに防御と補給は重要です。でも、ライナーが次に何をするかを見極める方が優先よ。」

彼女の言葉に一同が静まり返った。

「彼は普通の指揮官じゃない。ただ勝ち負けを競っているだけじゃないの。何か別の目的がある。」

「別の目的……。」

ロイドが眉をひそめながら呟いた。

「奴の目的が何であれ、俺たちの役目はお前を守り、この国を守ることだ。」

「ええ、分かっている。でも、そのためにも彼の考えを知る必要があるわ。」

フィオラの言葉に、一瞬の沈黙が流れた。
やがて、ロイドが深く頷いた。

「分かった。お前がそこまで言うなら、俺も従う。だが、命を無駄にするような真似だけは絶対にするな。」

「もちろんよ。」

フィオラの目に宿る意志の強さを見て、ロイドはそれ以上何も言わなかった。

翌朝、フィオラは少数の部隊を率いてライナーの動向を探るため、偵察に向かった。
大規模な行動を起こせば敵に察知される恐れがあるため、あえて小規模で動くことを選んだのだ。

森の中を進みながら、彼女は目を細めて周囲を警戒していた。

「彼らがどこに向かったのか……手がかりが欲しい。」

その時、遠くの丘の上に赤い旗がちらりと見えた。ライナーの部隊だ。
彼女は息を潜めながら、慎重にその動きを観察した。

「……防御を固めている?それとも何かを待っているの?」

ロイドが近づいてきて、小声で囁く。

「奴らは動く気配がないな。ここで待ち伏せしているのか?」

「そうかもしれない。でも、こんな場所で彼がじっとしているとは思えない。」

その時、フィオラの目に奇妙な光景が映った。ライナーの部下たちが、何かを地面に埋めているようだ。

「……あれは何?」

彼女が驚きの声を漏らすと、ロイドが鋭く答えた。

「罠だ。奴らはここに何かを仕掛けている。」

フィオラは考えを巡らせながら、小さく頷いた。

「私たちは一度戻って陣営に伝えるわ。ライナーが何を狙っているのか、もっと情報が必要よ。」

ロイドは警戒を続けながら、フィオラと共にその場を離れた。

陣営に戻ったフィオラは、部下たちにライナーの動きを報告した。

「敵の動きが鈍いのは、何かを計画しているからだわ。この戦いを終わらせるには、彼らの真意を暴かなければならない。」

ロイドはそんな彼女を見つめながら、静かに言った。

「お前の決断に従う。だが、どんな状況でも、俺が必ずお前を守る。」

フィオラは彼に感謝の目を向けながら、心の中で次の一手を考え始めた。

「ライナー……あなたが見ている視点を、私も知る必要がある。」
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