戦乙女の選ぶ道

藤原遊

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6章 将たちの対話

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夜の陣営は静まり返り、兵士たちの疲れた声が小さく響いていた。
フィオラは自分の天幕で地図を広げ、ライナーの動きとこれからの作戦を考えていた。目の前にある地図には、偵察で得た情報が書き込まれている。彼の軍勢は一見すると動きを止めているようだが、何かを待つような配置になっていた。

「……やっぱり、ただ守りに入っているわけじゃない。」

フィオラは呟きながら、ライナーの部隊が埋めていたものの正体について考えていた。それがただの罠ではなく、もっと大きな意味を持つものであるような気がしてならない。

「ライナー……あなたは何を見ているの?」

その声に、天幕の外からロイドが顔を出した。

「お前、また考え込んでいるのか。」

「ええ。でも、このまま彼を放っておくわけにはいかないわ。」

ロイドは少し眉をひそめながら、彼女の隣に座った。

「お前がどうしても気になるのは分かる。でも、奴の動きを探るのは危険だ。」

「分かってる。でも、この戦いを終わらせるためには、私が彼に近づくしかないの。」

フィオラの決意を感じたロイドは、一瞬だけ言葉を飲み込んだ。だが、すぐに力強い声で言った。

「なら、俺も行く。お前一人で行かせるわけにはいかない。」

「……ロイド。」

彼女はその言葉に感謝を感じながらも、同時に心配を覚えた。ロイドがいつも自分を守ろうとする気持ちは嬉しいが、彼に危険な目に遭わせたくないという思いがあった。

「分かった。あなたと一緒に行くわ。でも、無理はしないで。」

「お前にだけは言われたくないな。」

ロイドの冗談に、フィオラは小さく笑った。

翌日、フィオラとロイドは少数の部隊を率いてライナーの陣地に向かった。
森の中を慎重に進む彼女たちは、次第に敵陣の近くに到達した。木々の間から見える赤い旗が、彼らの目的地を示している。

「ここからは慎重に行くわよ。目立った動きは絶対に避けて。」

フィオラは部隊に小声で指示を出し、ロイドと共にさらに前へ進んだ。

やがて、彼女の目にライナーの姿が映った。彼は部下たちと話をしているようだったが、その目には疲れの色が見える。それでも、彼の存在感は失われていない。

「……やっぱり、ただの敵将じゃない。」

フィオラは息を飲みながら、彼の動きを見つめた。その時、ライナーが突然彼女の方を向いた。目が合った瞬間、彼の口元に微かな笑みが浮かぶ。

「見つかった……!」

フィオラはすぐに退こうとしたが、ライナーが手を挙げて部下に何かを伝えると、彼自身が彼女たちの方へと歩き出した。

「フィオラ・カイゼルン、こんなところで会うとはな。」

彼の声は静かでありながら、どこか優しさを感じさせる響きがあった。

ロイドはすぐに剣を構え、フィオラの前に立った。

「これ以上近づくな、ライナー・フォルクス!」

「落ち着け、俺は今、戦いに来たわけじゃない。」

ライナーは剣を持たず、両手を見せながらゆっくりと歩みを止めた。

「……話がしたいだけだ。」

その言葉に、フィオラは驚きながらも問い返した。

「話?今さら何を話すというの?」

「君が戦場で見せた力と決意、それを改めて確認したかった。そして、もう一つ……。」

ライナーの声が少し低くなった。

「君に、俺の見る景色を知ってほしい。」

その言葉に、フィオラは心がざわめくのを感じた。
ロイドが彼女の横で警戒を強めながら、低い声で言った。

「フィオラ、こいつの言葉を信じるのか?」

フィオラはしばらく考えた後、ロイドに小さく頷いた。

「大丈夫。私に何かあれば、あなたがいるでしょう?」

「……分かった。でも、絶対に無茶はするな。」

ライナーがそのやり取りを見て、少しだけ目を細めた。

「君は本当に信頼されているな。」

「当たり前よ。それが私の役目だもの。」

フィオラは静かに答えた。その言葉には、自分の中に芽生えつつある疑問と期待が混じっていた。
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