戦乙女の選ぶ道

藤原遊

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6章 将たちの対話

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フィオラはライナーと向き合い、息を整えた。彼の穏やかながらもどこか挑むような目線に、自分の視線を重ねる。

「……私に見てほしい景色、とはどういう意味?」

ライナーは一瞬だけ口を閉ざし、静かな目でフィオラを見つめ返した。そして、彼はゆっくりと息を吐きながら話し始めた。

「フィオラ・カイゼルン。君は戦場をただの勝敗で語るつもりか?」

「何を言いたいの?」

「俺が今まで見てきたもの、戦いの中で失われたもの。その全てを、君に理解しろとは言わない。ただ、この戦争が単なる国と国の争いではないことを知ってほしい。」

ライナーの言葉に、フィオラは眉をひそめた。
その静かな口調には怒りや焦りはなく、むしろ彼自身の抱える重さが滲み出ているように感じた。

「単なる争いではない……?」

彼女が問い返すと、ライナーは少しだけ目を伏せた。

「俺がここに立つ理由は、国の命令だけじゃない。この戦いの裏には、もっと大きな力が絡んでいる。」

「大きな力……?」

フィオラの胸がざわめいた。その言葉が、ただの隣国間の争いを超えた何かを示唆しているように聞こえた。

「君が信じるものを否定するつもりはない。だが、この戦いが終わった時、君は自分が何を守ったのかを考えなければならない。」

ライナーは静かに言葉を続けた。

「その時になれば分かるだろう。俺が言う景色が何を意味しているのかを。」

フィオラは一瞬言葉を失った。彼の言葉には、ただの敵将にはあり得ない深さがあった。

ロイドは二人のやり取りを見守りながら、胸の中で言いようのない感情を覚えていた。
ライナーの言葉は確かに一理あるように聞こえたが、それでもロイドにとって彼は許せない存在だった。

「話が終わったのなら、さっさと帰るんだな。これ以上、フィオラを惑わせるな。」

ロイドの鋭い声が場を切り裂いた。彼は剣を構えたまま、一歩前に出た。

「ロイド、落ち着いて。」

フィオラは静かに手を伸ばし、彼を制した。

「彼の話を聞くことは必要だと思う。それが私たちの未来に関わることなら、なおさら。」

ロイドは歯を食いしばりながらも、彼女の言葉に従った。だが、その胸には言いようのない不安が渦巻いていた。

ライナーはロイドの反応を見て、少しだけ笑みを浮かべた。

「君がこれほど信頼されているのも分かる。だが、その信頼が君を縛ることになる時もあるだろう。」

「それはどういう意味?」

フィオラが問い返すと、ライナーは少しだけ目を細めた。

「人は一人では戦えない。だが、周りの支えが時に足かせになることもある。君がそれに気づく時が来るのかもしれない。」

その言葉が持つ含みを、フィオラは完全に理解することができなかった。それでも、彼の言葉が自分の中に何かを残していく感覚だけは確かだった。

ライナーは一歩後ろに下がり、赤いマントを翻した。

「これ以上は戦場で話そう。俺もお前も、選ぶべき道がまだ残っている。」

「待って……!」

フィオラが声を上げる前に、ライナーは彼女に背を向けて歩き出した。彼の部下たちがそれを見て従い、赤い旗と共に森の奥へと消えていった。

フィオラはその場に立ち尽くしていた。彼の言葉の意味を理解しようとするほど、自分が知らないことの多さに気づかされる。

「ライナーの見る景色……私は、それを知る必要があるのかもしれない。」

その呟きに、ロイドが振り返った。

「お前はあいつの言葉を信じるのか?」

「分からない。けど、あの言葉がただの挑発には思えないの。」

ロイドは苦々しい表情を浮かべながら、剣を鞘に収めた。

「お前がそう思うなら、それを追うしかないだろう。ただし、俺はお前の判断を守るためにいる。絶対に無茶をするな。」

フィオラは彼の言葉に小さく頷いた。
ロイドの支えがあることが、彼女の中の不安を和らげているのは間違いなかった。
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