戦乙女の選ぶ道

藤原遊

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6章 将たちの対話

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フィオラは陣営に戻り、天幕の中で静かに地図を見つめていた。
ライナーとの戦いはひとまず終わったものの、彼の言葉や行動が彼女の中に疑問を残し続けている。

「私の信念を試すような態度……。どうして撤退したの?本当に、あれが彼の全てなの?」

彼女の問いに答える者は誰もいなかった。
外から聞こえる兵士たちの話し声や、傷ついた仲間を労う声が、天幕の中の静けさを際立たせている。

その時、ロイドが入ってきた。
彼は少し荒れた髪を直しながら、彼女の前に腰を下ろした。

「お前、また考え込んでいるな。」

「ええ……。ライナーが何を考えているのか、それが分からなくて。」

ロイドは腕を組み、彼女の話をじっと聞いていた。

「奴は確かに変わっているが、それでも敵であることに変わりはない。深く考えすぎると、お前自身を見失うぞ。」

「分かってる。でも、ただ戦うだけでは、この戦争を本当に終わらせることはできない。」

フィオラの声には迷いと共に、強い決意も混ざっていた。
ロイドはその様子を見て、少しだけ微笑んだ。

「お前らしい答えだな。」

彼の言葉にフィオラは小さく息を吐いた。彼が隣にいることで、どれだけ自分が支えられているのかを改めて感じる。

「ロイド、ありがとう。あなたがいてくれるから、私はこうしていられる。」

ロイドは軽く肩をすくめた。

「当たり前だろう。お前を守るのが俺の役目なんだから。」

その何気ない言葉が、フィオラの胸をじんわりと温めた。

その夜、フィオラは指揮官たちを集め、新たな戦略会議を開いた。
地図を広げながら、彼女はライナーの次なる動きを予測するための議論を進めていく。

「彼らの動きは一見すると散漫ですが、これは何かを隠すための陽動かもしれません。」

副官の意見に、フィオラは頷いた。

「ええ、私もそう思う。次に彼らが動く場所を特定するには、もっと情報が必要ね。」

ロイドが地図を見ながら口を開いた。

「奴らが狙うとすれば、この補給拠点だろう。物資を断てば、俺たちの防御力を大きく削ぐことができる。」

「それは十分に考えられるわね。でも、ライナーはもっと複雑な策を考える人よ。」

フィオラの言葉に、一同が静かに頷いた。
ライナーの予測困難な戦術が、彼ら全員に緊張を与えていた。

「私たちは二手に分かれるべきだと思う。」

フィオラがそう提案すると、副官たちが驚いた表情を見せた。

「二手に分けるとなると、兵力が大きく分散してしまいます!」

「分かってる。でも、それでも彼の次の動きを読むには、柔軟性が必要よ。」

彼女の声には確信があり、誰もそれ以上反論することができなかった。
ロイドは彼女を見つめながら静かに言った。

「なら、俺はお前と行動を共にする。お前を一人にするわけにはいかない。」

「ありがとう、ロイド。あなたがいてくれるなら心強いわ。」

彼女の言葉にロイドは短く頷いた。

翌朝、フィオラは少数の部隊を率いて補給拠点へ向かった。
ライナーの部隊が本当にそこを狙うのかは分からないが、もしそうならば、この動きが戦局を大きく変える鍵になるはずだ。

「ロイド、村を出た住民たちの避難先は安全よね?」

馬を走らせながら、フィオラが尋ねた。
ロイドは力強く頷く。

「間違いない。後方の陣営でしっかり守られている。心配するな。」

「ありがとう。それを聞いて少し安心したわ。」

彼女の胸の中にはまだ不安が残っていたが、それでもロイドの言葉が少しだけ彼女を軽くした。

補給拠点の近くに到着した時、彼女たちは遠くに見慣れた赤い旗が翻っているのを目にした。
ライナーの部隊だ。

「やっぱり……ここが次の狙いだったのね。」

フィオラはすぐに兵士たちに指示を出し、拠点の防衛線を整え始めた。
だが、その時、彼女は遠くに立つライナーの姿を見つけた。

彼は剣を持たず、こちらを静かに見つめている。

「……何を考えているの?」

フィオラは呟きながら、馬を少し進めた。その瞬間、ライナーが大きな声で呼びかけてきた。

「フィオラ・カイゼルン。君がここに来るのを待っていた。」

その言葉に、フィオラの胸がざわめいた。
彼がこれ以上の戦闘を望んでいないのだとしたら、一体何を――?
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