戦乙女の選ぶ道

藤原遊

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番外編

辺境伯領の発展

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ライナーがフィオラと再会したのは、戦争終結から一年後のことだった。
自国の使節団として、彼女の辺境伯領を訪れることになった彼は、復興が進んだその地を目にして驚かされた。荒廃したはずの土地が、今や活気に満ちた村や町であふれ、穏やかな空気が流れている。

視察の途中、ライナーは新しく整備された運河を眺めていた。
川沿いには新しい堤防が築かれ、その周囲には農地が広がっている。農民たちが楽しげに作物を収穫する姿が、彼の目に鮮やかに映った。

「これが……あの戦場だった土地か。」

ライナーは静かに呟き、周囲を見渡した。
戦争中、ここは多くの兵士たちが行き交った激戦地だった。彼自身もかつてこの地を訪れたことがあり、その時の記憶が今の景色と重ならないことに戸惑いを覚えた。

「どう思う?」

フィオラの声が背後から聞こえた。
振り返ると、彼女が静かに歩み寄り、同じ景色を見つめていた。

「見違えたな。ここがかつての戦場だったとは思えない。」

「そうでしょう?治水工事をして、土地を整えれば、荒れた地も再び命を取り戻すわ。」

フィオラは穏やかな微笑みを浮かべていたが、その目には確かな誇りが宿っていた。

「それにしても、驚かされる。君は戦場では鋭い指揮官だったが、ここではまるで違う顔を見せている。」

ライナーが感嘆の声を漏らすと、フィオラは小さく笑った。

「私は領主の娘ですもの。本来なら、こうして土地を治めることが私の役目だったのよ。」

「だが、ここまでの成果を出せる者は多くない。戦だけではない君の知恵には、本当に驚かされるよ。」

その後、フィオラはライナーを連れて領内の市場へと案内した。
そこでは商人たちが活発に商品を売り買いし、笑顔で取引をしていた。その活気に、ライナーはまたしても感心させられる。

「これも君の手腕か?」

「ええ。商人たちが自由に取引できる仕組みを作ったの。税率を見直して、交易を活性化させたのよ。」

フィオラはさらりと言ったが、その背景には彼女の細やかな努力があることをライナーは察していた。

「戦争で物資が滞り、商人たちはこの領地を避けていたわ。でも、ここを通れば利益が出るように仕組みを整えれば、自然と彼らは戻ってくる。人と物の流れが復活すれば、領民たちの生活も潤うのよ。」

「そうか……戦場での冷徹な判断だけじゃなく、こんな視点を持っているとはな。」

ライナーは市場の喧騒を眺めながら、フィオラに目を向けた。

「君には多くの才能がある。それに気づいていたつもりだったが、まだ甘かったらしい。」

「褒めてくれるのは嬉しいけど、それ以上に自分の国をどうにかしなさい。」

フィオラは軽く笑いながら冗談めかして言った。
だが、その言葉の裏に込められた真剣さを、ライナーはすぐに感じ取った。

「そうだな。君のこの成果を見せつけられては、俺も手を抜くわけにはいかない。」

ライナーは微笑みながら、フィオラに短く頭を下げた。

「君の知恵と努力には敬意を表するよ、フィオラ・カイゼルン。この領地が再生したのは君の力だ。」

「それは違うわ。私一人でできたことじゃない。領民たちが協力してくれたからこそよ。」

フィオラはそう答えたが、その顔には誇りが浮かんでいた。ライナーはその様子を見つめながら、静かに心の中で呟いた。

「戦争を終わらせただけではなく、その後を見据える力も持っている。……君のような人間がもっと多ければ、この世界は変わるかもしれないな。」

視察の終わり、ライナーは馬に乗りながらフィオラに別れの言葉を告げた。

「君と共に戦えたことを誇りに思う。そして、この土地での君の働きを目の当たりにして、さらに感謝している。」

「こちらこそ、ありがとう、ライナー。あなたが影との戦いで支えてくれたからこそ、私はここまで来られたのよ。」

二人は短く微笑みを交わした。
そして、ライナーは馬を進めながら、再び心の中で呟いた。

「君の知恵と勇気は、この世界の希望だ。……また会う日があれば、その時は俺も誇れるものを見せよう。」

その背中を見送るフィオラの目にも、静かな感謝と未来への期待が浮かんでいた。
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