魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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2章 業火の番人

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ギルド奥の扉をノックすると、低く落ち着いた声が返ってきた。

「入れ。」

アリアが扉を開けると、部屋の中には一人の壮年の男性が座っていた。炎のような赤髪と鋭い金色の瞳。肩にかけられた黒いマントと、両手にしっかりと装着された革製の黒手袋が目を引く。机の上には整理整頓された書類の束が並んでいる。

「アリアか。戻ったな。」
書類から視線を上げ、ユーゴは冷静な口調でそう言った。

「うん。ただいま!それでさ、この人拾ったんだ。」

アリアがイアンを押し出すように前に出すと、ユーゴの視線が鋭く彼を捉えた。その金色の瞳が瞬時にイアンを見据える。しばしの間、緊張感のある沈黙が部屋を包んだ。

「……。」

「イアンっていう魔法使い。倒れてたところを助けたんだよね。ちょっと力使いすぎてバテてたみたいだけど、今は大丈夫そうじゃん?」

アリアの無邪気な説明をよそに、ユーゴは椅子から立ち上がりながらゆっくりと手袋を確認する仕草を見せた。その動きに、イアンは眉を微かに動かす。

「君の手を、少し見せてもらっても構わないか。」
ユーゴの声は抑揚が少ないが、どこか計るような響きがあった。

イアンはその言葉に、一瞬だけ躊躇した。だが、すぐに冷静さを取り戻し、無言で手を差し出す。

「……承知しました。」

ユーゴは手袋越しにイアンの手を握った。無駄のない動きで、その手を軽く持ち上げる。わずかな沈黙の後、目を細める。

その手から伝わる感覚は、ただ冷たいだけではない。肌を隔ててなお、凍りつくような呪いの残響が微かに手袋越しに伝わってくる。

「……なるほどな。」
短く結論めいた言葉を発しただけだった。

「何?どうしたの?」
アリアが首を傾げる。

ユーゴは少しだけ間を置いて答えた。

「少し珍しい体質のようだな。しかし、君に害があるようには思えない。」

「そりゃよかったじゃん!」

アリアが無邪気に笑う。その笑顔に、ユーゴの目がわずかに和らぐ。

「イアンだったな。」
ユーゴは彼に向き直り、冷静な口調で続ける。

「しばらくこの街に滞在するのであれば、ここを拠点にしても問題ない。君を拾ってきたのがアリアである以上、ギルドとしても責任を持つ必要があるだろう。」

「…ご配慮に感謝します。」
イアンは静かに頭を下げた。その仕草を見て、ユーゴは微かに唇を動かす。

(呪いによる危険性は高いが…アリアに対して発動しない以上、彼女の特性がこの件の鍵を握っている可能性があるな。)

ユーゴは一度目を閉じ、書類の束に視線を戻した。

「さて、報告を受ける。アリア、今日の依頼内容を伝えろ。簡潔にだ。」

「はーい!今日もばっちりだったよ!」

アリアが明るく言うのを聞きながら、ユーゴは再び冷静な表情を浮かべたまま、書類に目を走らせた。
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