魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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14章 双月の遺跡

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双月の遺跡を後にしようとするアリアとイアン。その背後から現れた黒いローブの人物は、圧倒的な魔力を纏いながら二人に歩み寄ってきた。

「鍵を持ち出したお前たちに、ここから先はない。」
その低い声が冷たく響く。

「また邪魔してくるのか……!」
アリアが剣を握りしめ、前に出た。

「こいつ……執行者よりもさらに強い可能性がある。君一人では危険すぎる。」
イアンが冷静に分析しながら杖を構えた。

「だから二人で戦うんでしょ?大丈夫、イアンがいれば絶対勝てる!」
アリアが笑顔を浮かべるが、その目には強い決意が宿っていた。

ローブの人物が杖を振り上げると、闇の魔力が部屋全体に広がり、無数の刃となって二人を襲い始める。

「避けて!」
イアンが叫ぶ。

アリアはその攻撃を紙一重でかわしながら、ローブの人物に接近し、「選ばれし刃」を振り下ろす。しかし、剣が相手に届く直前、彼の周囲に現れた黒い障壁がその攻撃を弾き返した。

「なんて硬い防御……!」
アリアが驚きの声を上げる。

「単なる魔法障壁ではない。奴自身の魔力そのものが防御になっている。」
イアンが冷静に状況を判断する。

「じゃあ、どうすればいいの?」

「防御を崩すには、魔力の集中を乱すしかない。君が引きつけている間に、私が隙を作る。」

「分かった!任せて!」
アリアが敵の周囲を動き回りながら攻撃を仕掛ける中、イアンは杖を掲げ、氷の魔法陣を展開した。

「氷槍の連撃――放て!」

複数の氷の槍が敵の周囲を攻撃し、障壁の一部が僅かに揺らいだ。

「いける……今だ!」
アリアが剣を振り上げ、障壁の揺らいだ箇所を狙う。

しかし、その瞬間、ローブの人物が闇の刃を放ち、アリアに向かって反撃してきた。

アリアが反撃を避けきれないと悟った瞬間、イアンが間に飛び込み、全身でその攻撃を受け止めた。

「イアン!?」
アリアが叫ぶ。

イアンは肩口から血を流しながらも、杖を握りしめて立ち続ける。

「無茶をするなと言っただろう……君が倒れたら、この戦いに意味がなくなる。」
イアンの声は弱々しくも静かだった。

「だからって、あんたが傷ついてどうすんのよ!」
アリアは怒り混じりの声で叫びながら剣を振り上げ、全力で障壁を斬り裂いた。

「これで終わりだ!」
アリアの剣がついにローブの人物の防御を突破し、彼の体を貫いた。

ローブの人物は低い声で呟きながら膝をつき、闇の魔力と共に霧のように消え去った。

「終わった……でも!」
アリアはすぐにイアンに駆け寄る。

イアンは肩を押さえながらも立とうとしていたが、傷は深く、顔色が明らかに悪かった。

「馬鹿!じっとしてて!」
アリアが慌てて持ち物から回復用の魔道具を取り出す。

「これ……効いてくれよ!」
アリアが魔道具を発動させると、光がイアンの体を包み込み、傷口が少しずつ癒えていった。

「……間に合ったか。」
イアンが微かに息を吐く。

「間に合ったけど、まだ無理しちゃダメだよ。街に戻ろう、すぐに!」
アリアが彼を支えながら必死に言う。

アリアはイアンを支えながら遺跡を出て、足早に街を目指した。彼女の表情には焦りが見て取れる。

「イアン、絶対に死なないでよ……街まで持たせるんだから!」

「心配しすぎだ。これくらいで私が倒れると思うのか?」
イアンは弱々しく笑みを浮かべるが、その言葉とは裏腹に体は限界に近かった。

「こんな時に強がらないの!絶対に助けるんだから!」
アリアの声には涙が混じっていた。

ようやく街にたどり着くと、ギルドの仲間たちが二人を迎えた。

「おい、イアンが大変だ!すぐに治療を!」
出迎えたギルドの仲間が叫ぶと、ユーゴが現れ、魔法を使ってイアンの傷を癒し始めた。

「この傷……本当に無茶をするやつだな。」
ユーゴがため息をつきながら言う。

アリアは安堵の表情を浮かべながらも、悔しそうに呟いた。

「もっと早く私が守れてれば……。」

「君のせいではない。むしろ君がいなければ、私はここに戻れていなかっただろう。」
イアンが微かな声で言うと、アリアは顔を伏せた後、小さく頷いた。

「だから、これからはもっと強くなる。絶対にイアンを守るから。」

その言葉にイアンは目を閉じながら微かに微笑んだ。
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