魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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16章 天頂の裂け目

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黒幕が闇と共に姿を消し、静寂が裂け目の広間に戻ってきた。アリアは剣を鞘に収めながら深く息を吐き、崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。

「……終わった?」

アリアが疲れた声で呟く。

「一時的にだ。奴はまだ完全に敗れたわけではない。」

イアンが杖を地面に突き、ゆっくりと歩み寄る。その顔には疲労の色が濃いが、表情は冷静を保っていた。

「でも、剣が反応してたよ。この剣、ちゃんと私に応えてくれたんだ。」

アリアは剣の柄を撫でながら、小さく笑みを浮かべた。その剣からは微かに青白い光が漂い、まるで彼女の感情に寄り添うようだった。

「それは君が選ばれた証だ。だが、その力を完全に引き出すにはまだ足りないものがある。」

「足りないもの……?」

「おそらく、この裂け目を超えた先に答えがあるだろう。」

イアンは剣と鍵を見つめながら、低く呟いた。

二人が話している最中、裂け目全体が大きく揺れ始めた。崩れゆく空間に、急激に収縮するような力が働いている。

「イアン!これって……!」

「空間が自壊を始めている。この裂け目は黒幕の力によって維持されていたようだ。今すぐ脱出しなければ!」

イアンが杖を振り上げ、結界を展開する。その魔法が二人を包み込み、瓦礫を防ぐ。

「急ごう、出口は来た道だ!」

アリアが素早く立ち上がり、剣を握り直して駆け出す。二人は崩壊する裂け目の中を必死に走り抜けた。

ようやく裂け目の入り口にたどり着いた二人。外の冷たい空気が肌を撫で、広がる星空が視界に入った。

「ふぅ……なんとか無事に出られたね。」

アリアがその場に倒れ込むように座り込む。

「だが、裂け目の崩壊で重要な情報が失われた可能性がある。あの剣が何を意味しているのか、さらなる手がかりを探す必要がある。」

イアンが鋭い目で裂け目の跡を見つめた。

「……でも、これで終わりじゃないんだよね。次はどこに行くの?」

アリアが不安げに問いかける。

「剣が次の行き先を示すはずだ。今はその反応を待つしかない。」

イアンがそう答えた瞬間、アリアの腰に下げた剣が再び青白い光を放ち始めた。その光はまるで道を指し示すように、北の方向へと伸びていく。

「北……剣が示しているね。」

アリアが立ち上がり、剣を見つめる。

「そこに、次の答えがある。だが、今は一度街に戻るべきだ。このまま進むのは危険すぎる。」

イアンが冷静に判断する。

翌日、二人は街へと帰還した。ギルドの仲間たちが出迎える中、ユーゴが疲労した二人の姿を見て眉をひそめる。

「随分とやつれた顔をしているな。裂け目で何があった?」

「黒幕と戦いました。でも、剣は私に応えてくれたんです。」

アリアが嬉しそうに剣を見せると、ユーゴはそれに目を凝らした。

「その剣がさらに力を得たということか……だが、それだけでは終わらないだろう。」

「ええ。剣が次の行き先を示しています。北の方角に、何かがあるはずです。」

イアンが低い声で答える。

その夜、イアンはギルドの宿で一人窓の外を見つめていた。星空を見上げる彼の表情にはどこか孤独の影が落ちている。

(俺が母さんに置いていかれた理由は分かっている。それでも……あの孤独がどれほど俺を傷つけたか、母さんは知らないだろう。)

ふと、アリアの笑顔が頭をよぎる。剣を握りしめ、どんな状況でも前に進む彼女の姿。

(だけど、あいつがいる今は……少しだけ救われる気がする。)

イアンは小さく息を吐き、目を閉じた。
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