魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

文字の大きさ
97 / 200
19章 終焉の谷

しおりを挟む
剣の完全覚醒と試練を乗り越えたアリアとイアン。二人の間には、試練の中で生まれた新たな絆が形となり、これまで以上に強い信頼が芽生えていた。異空間を抜けて現実に戻った二人は、終焉の谷の出口に立っていた。

出口から差し込む光が二人を包み込み、谷全体を見下ろす風景が広がる。険しい道のりと数々の戦いを思い返し、アリアはそっと剣を見つめた。

「終わったね……本当に。」

その言葉に、イアンが静かに頷く。

「そうだな。ただ、剣が完全に覚醒したことで、新たな役目を負ったようにも感じる。」

イアンが杖を握りしめながら、遠くを見つめる。アリアはそんな彼を見て小さく笑った。

「やっぱり、君は難しいことを考えるよね。でも、私はただ、自分にできることをするだけだよ。」

「……それが君の強さだ。」

イアンの言葉に、アリアは少しだけ頬を赤らめながら視線をそらした。

アリアは立ち止まり、イアンの袖を軽く引いた。その仕草にイアンが振り返ると、彼女は少し真剣な表情を浮かべていた。

「ねえ、イアン。」

「どうした?」

「さっき、私のことを支えるって言ってたよね。でも、それだけで本当にいいの?」

イアンは少しだけ目を伏せ、低い声で答えた。

「……俺は、それでいいと思っている。」

「本当は、もっと思ってることがあるんじゃないの?」

アリアの問いに、イアンの胸が一瞬だけ締め付けられるような感覚に襲われた。

イアンは短く息を吐き、ゆっくりと視線をアリアに戻した。その瞳には、迷いと葛藤が浮かんでいた。

「アリア……俺は、君を守りたいと思っている。それ以上の感情を抱くことは……許されないと思っている。」

「なんで?」

アリアは一歩前に進み、その言葉を強く問い返した。イアンは少し困ったように目を逸らしながら続けた。

「俺は……魔族だ。人間とは違う。君と同じ時間を過ごすことも、同じ未来を描くこともできないかもしれない。」

その言葉に、アリアは黙り込んだ。しかし、すぐにその瞳に決意を宿し、イアンの前に立った。

「違うよ、イアン。君が魔族だからとか、人間だからとか、そんなの関係ない。私にとって大事なのは、君が誰かじゃなくて、君が私にとってどういう存在かってことなんだよ。」

その言葉に、イアンはわずかに目を見開いた。アリアは一歩も引かず、続けた。

「君がどんなに自分を抑えようとしても、私は君のことを大事に思ってる。だから、君ももっと自分を信じてよ。私は、君がそばにいることが幸せなんだから。」

その真っ直ぐな言葉に、イアンの心の中で長く張り詰めていたものが少しずつ解けていくのを感じた。

二人の間に静かな時間が流れる中、イアンは短く息を吐き、微かに微笑んだ。

「君には敵わないな……。」

「え、何それ?」

「俺がどう思っていようと、君はきっとそれを乗り越えさせる力を持っている。だから、俺も少しだけ信じてみることにする。自分を、そして君を。」

その言葉に、アリアの瞳がわずかに潤む。しかし、すぐに笑顔を浮かべて手を差し出した。

「それなら、ちゃんと言ってみてよ。私のこと、どう思ってるのか。」

イアンは少しだけ困ったような顔をしたが、静かにその手を取った。

「……君は、俺にとってかけがえのない存在だ。それ以上の言葉は、まだ見つからない。」

「それで十分。ありがとう。」

二人はしっかりと手を繋ぎ、再び歩き出した。互いに抱く想いを確認し合い、新たな絆を胸に次なる道を目指して。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

処理中です...