魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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21章 街に起きた異変

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湖での試練を乗り越え、剣の新たな力を得たアリアとイアン。街への帰還を果たした二人だったが、その平穏は長くは続かなかった。剣の覚醒がさらなる波紋を呼び寄せていたのだ。

街の中心で結界の調整を行っていたユーゴが、ギルドに緊急の報告を持ち込んできた。ギルドホールに集まった仲間たちの前で、彼は地図を広げながら説明を始める。

「結界が安定したことで街は守られているが、その影響で周囲の魔力が大きく乱れている。そして……これは、剣の力が完全に覚醒したことで発生したものだろう。」

ユーゴの指が地図の特定の地点を指した。街から北東に位置する森の奥深くに赤い印が記されている。

「ここに、異常な魔力の反応が確認された。恐らく、剣を狙って動き始めた者たちの拠点だろう。」

アリアが真剣な顔で剣を握りしめた。

「つまり……そこに黒幕がいる可能性が高いってことだよね。」

「その通りだ。今後の被害を防ぐためにも、先手を打つ必要がある。」

イアンが静かに頷き、ユーゴに問いかける。

「黒幕の正体について、何か分かっているのか?」

ユーゴは一瞬ためらったが、意を決したように口を開いた。

「名前までは分からない。ただ、奴が魔族の高位存在である可能性は非常に高い。そして、その目的は剣の力を完全に支配することにあるだろう。」


その夜、ギルドが次なる作戦を練る中、アリアとイアンは街の外れにある高台で風に当たっていた。二人がそれぞれの思いを胸に静かに立っていると、不意にイアンが背後に気配を感じた。

「……誰だ?」

イアンが杖を構え、振り返ると、そこには長い銀髪を風に揺らしながら佇む女性がいた。その姿を見た瞬間、イアンの表情が強張る。

「母さん……?」

アリアは驚きの声を上げた。

「この人が、イアンのお母さん……?」

ヴァレリアは静かに微笑みながら、イアンの目をじっと見つめた。

「久しぶりね、イアン。そして、アリアさん。初めまして。」

その柔らかな声に、アリアは一瞬戸惑いを見せたが、すぐに気を引き締めた。

「どうしてここに?何が目的なの?」

アリアの問いに、ヴァレリアは小さくため息をついた。

「目的は一つ。あなたたちに警告をするためよ。黒幕の計画が、いよいよ本格的に動き始めたわ。」

「……警告?」

イアンが険しい顔で問い返すと、ヴァレリアは冷静な声で答えた。

「奴の目的は、剣を完全に覚醒させ、その力を利用して魔族と人間を支配する新世界を築くこと。そのために、アリアさん、あなたの命を狙っている。」

「私の……命?」

アリアが驚いたように剣を見下ろす。ヴァレリアは続けた。

「剣の力は、ただの武器ではない。持ち主の魂そのものを鍵として使うことで、完全な覚醒を迎える。そして、それを支配する者は世界を変える力を持つことになる。」

イアンが低い声で問いかけた。

「それが分かっているなら、なぜ母さんは黒幕の側にいる?」

ヴァレリアの瞳に一瞬だけ陰りが走る。

「私は、彼に従っているわけではない。だが、奴の計画を止めるためには、彼のそばにいる必要があった。それだけよ。」

「そんな言い訳が通じると思うのか?」

イアンの声に怒りが滲む。ヴァレリアは短く息を吐き、彼をじっと見つめた。

「イアン、私はあなたに悔いのない選択をしてほしいと思っている。それがどんな形であれ、あなた自身の意志で決めなさい。そして……アリアさんを大切にしなさい。」

その最後の言葉に、イアンは思わず目を伏せた。ヴァレリアはアリアに向き直り、真剣な声で言った。

「あなたが彼と共にいることで、彼がどれだけ救われているか、分かっているでしょう?」

アリアはその言葉に戸惑いながらも頷いた。

「……私は、イアンを守りたい。そのためなら、どんなことでもするよ。」

ヴァレリアは小さく微笑み、静かにその場を後にした。

「気をつけなさい。黒幕はすぐに動くわ。」
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