魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

22章 砦の廃墟

②

廃墟の前で結界を解いたアリアとイアンは、いよいよ黒幕の城砦の内部へ足を踏み入れた。その空間には、不気味な静寂と強烈な魔力が漂っていた。

扉を開けると、中は広大な空間が広がり、古びた石壁には無数の魔法陣が刻まれていた。魔力の波動が絶え間なく流れ、周囲には異様な空気が満ちていた。

「ここが黒幕の拠点……。」

アリアが剣を握りしめながら呟くと、イアンが慎重な声で応じた。

「間違いない。この場所は、剣と俺の血に何かしらの反応を示している。」

「どういうこと？」

アリアが振り返ると、イアンは壁の魔法陣を見つめながら説明を始めた。

「この魔法陣、俺の持つ魔族の力と似た波動を放っている。さらに、剣がここに反応を示していることから、黒幕は剣を完全に覚醒させる計画を進めていると考えられる。」

「じゃあ、この剣がここで狙われてるってことだね。」

アリアは力強く剣を握り直し、先へ進む決意を固めた。

廊下を進む二人の前に、再び霧状の魔物が現れた。だが、今回の魔物はさらに強力で、形を変えながら二人に襲いかかってきた。

「これまでの魔物よりも……強い！」

アリアが剣を振るい、霧の核を狙う。しかし、魔物はすぐに形を崩し、別の形態に変化して反撃してきた。

「奴らは形を変えることで弱点を隠している。だが、剣の光なら核を見つけられるはずだ！」

イアンが冷気の魔法で動きを封じ、アリアが剣を光らせて突き進む。剣が放つ青白い光が霧を切り裂き、魔物を次々に消し去っていった。

「よし、これで……！」

魔物を全滅させた二人は息を整えながら先へ進んだ。


城砦の奥へ進むと、大きな部屋にたどり着いた。部屋の中央には、巨大な魔法陣が描かれており、その上には暗い光を放つ剣が浮かんでいた。

「これ……！」

アリアが剣を見上げると、イアンが険しい表情で近づき、その剣を観察した。

「これは……黒幕が作り出した模造品だ。だが、明らかに俺たちの剣を模倣している。奴の目的は、これを完全な鍵として完成させることだろう。」

「でも、どうして……？」

「おそらく、この剣を利用して何かを封印し、あるいは解放しようとしている。目的はまだ分からないが……。」

その時、不意に周囲の空気が震え、黒い霧が部屋全体を覆い始めた。

「来るぞ！」


霧が渦を巻き、やがて一人の男の姿を作り出した。その男は黒いマントをまとい、不敵な笑みを浮かべていた。

「よくぞここまでたどり着いたな、鍵の担い手たちよ。」

その声に、アリアが剣を構えながら叫ぶ。

「あんたが黒幕か！何が目的なの！？」

男は冷笑を浮かべ、アリアの剣を指差した。

「その剣こそ、世界を変える鍵。その力を完全に覚醒させることで、人間も魔族も支配する新たな世界を創造するのだ。」

「そんなこと、絶対にさせない！」

アリアが叫ぶと同時に、男が手をかざし、霧状の魔物を再び召喚した。

「さあ、その覚悟を見せてもらおうか。」

黒幕が召喚した魔物たちが一斉に襲いかかってきた。アリアとイアンは連携を取りながら応戦する。

「アリア、剣の光を最大限に引き出せ！」

「分かった！」

アリアが剣を振るうたび、青白い光が魔物を貫く。しかし、黒幕の魔力がそれを補うように次々と魔物を召喚し続ける。

「終わりが見えない……！」

イアンが冷静に周囲を見渡し、黒幕の動きを観察する。

「奴の体そのものが核だ。直接叩くしかない。」

アリアが頷き、黒幕に向かって突き進む。


アリアが剣を構え、黒幕の目前で振り下ろそうとした瞬間、黒幕が手をかざし、強烈な魔力で弾き飛ばした。

「くっ……！」

アリアが立ち上がろうとするが、黒幕の圧倒的な魔力が彼女を押し返す。その時、イアンが前に出て、冷気の魔法で黒幕の動きを一瞬止めた。

「今だ、アリア！」

「これで終わりにする！」

アリアが全力で剣を振り下ろし、黒幕の体を貫いた。その瞬間、黒幕が断末魔のような叫び声を上げ、霧と共に消え去った。