魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

22章 砦の廃墟

③

霧が残した痕跡を追い、アリアとイアンは再び旅路へと足を踏み出した。街を離れ、黒幕の新たな拠点へと向かう中で、二人は少しずつ迫りくる危機を感じ始めていた。

街の門をくぐり抜けた二人は、再び森の中へと進んでいった。道中、アリアは剣を背負いながら静かに口を開く。

「ねえ、イアン。剣の力が強くなるたびに、なんだかこの剣が私に何かを伝えようとしている気がするんだ。」

イアンが横目でアリアを見ながら応じる。

「剣には意思がある。持ち主に応じてその力を変えるのも、それゆえだろう。君に選ばれたということは、剣が君の決意を試しているのかもしれない。」

「決意を……試す？」

アリアは剣を軽く撫でながら、その言葉を反芻した。

「だったら、もっと強くならなきゃね。この剣の期待に応えられるように。」

イアンは短く頷き、前を見据えた。

「その覚悟があれば、必ず乗り越えられる。だが、無理はするな。君が倒れたら、俺は……。」

イアンの声が途切れたが、その意味を察したアリアは優しく微笑む。

「ありがとう、イアン。でも、大丈夫。君がそばにいてくれる限り、私は絶対に負けない。」

その言葉に、イアンは静かに微笑み返した。

道中、霧の痕跡は徐々に薄れていったが、やがて古びた遺跡の入り口へと二人を導いた。それは森の奥深く、かつて文明が栄えていた名残のような場所だった。

「ここが……霧の先？」

アリアが入り口を見上げると、イアンが慎重に杖を構えた。

「間違いない。この場所から強い魔力を感じる。黒幕がここを拠点にしている可能性が高い。」

二人が遺跡の中へと足を踏み入れると、周囲は薄暗く、冷たい空気が漂っていた。壁には古代の文字が刻まれており、イアンがそれを指でなぞりながら呟く。

「これは、魔族が残した封印の痕跡だ。おそらく、ここに黒幕の計画の一端が隠されている。」

アリアは剣を握りしめ、周囲を警戒しながら進んだ。

「また何かが襲ってくるかもしれないね。」

遺跡の奥へ進むと、不意に周囲の空気が変わり、再び霧が立ち込めた。その中から現れたのは、黒幕が送り込んだ新たな魔物だった。

「また霧の魔物……！？」

だが、今回の魔物はこれまでとは異なり、完全に人型をした巨大な影だった。その姿はまるで黒幕の模造品のように不気味で、鋭い剣を手にしていた。

「こいつ……強そうだね。」

アリアが剣を構え、イアンも冷気の魔法を準備した。

「油断するな。こいつはこれまでの魔物とは違う。剣を完全に覚醒させる力を試そうとしているのかもしれない。」

「だったら、全力で行くしかないね！」

アリアが剣を振るい、巨大な影に立ち向かった。影の剣は驚くほどの速さで振り下ろされ、アリアがそれを紙一重でかわす。

「速い……！」

イアンが冷気の壁を作り、影の動きを封じようとするが、影はそれを難なく切り裂いて突破する。

「アリア、剣の光を最大限に引き出せ！奴の核を見つけるんだ！」

「分かった！」

アリアは剣を両手で構え直し、集中力を高めた。剣が青白い光を放ち始め、その光が影の中心を照らし出した。

「見えた……そこが弱点だね！」

アリアが影の中心を目指して突進すると、影もまた剣を振りかざして反撃してきた。激しい攻防の中、アリアは一瞬の隙を突き、全力で剣を振り下ろした。

「これで……終わりだ！」

剣が影の中心を貫いた瞬間、影は断末魔のような叫び声を上げ、霧となって消え去った。

戦闘が終わると、遺跡の中央に隠されていた石碑が姿を現した。そこには古代の文字でこう刻まれていた。

「鍵を持つ者よ、次なる試練へ進め。真の覚醒はまだ先にある。」

アリアが剣を見つめながら呟く。

「まだ試練が続くってこと……？」

イアンは石碑をじっと見つめ、冷静に答えた。

「黒幕は剣が完全に覚醒するまで、何度でも試練を仕掛けてくるだろう。それを超えることで、剣の本当の力が解き明かされる。」

「だったら、全部乗り越えるだけだよ。この剣と、君と一緒に。」

アリアの言葉に、イアンは静かに頷いた。

「そうだ。必ず乗り越えよう。」