魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

23章 古代遺跡

②

遺跡の最深部に到達したアリアとイアン。二人の前には、不気味に輝く巨大な魔法陣と、黒幕を中心に展開された結界が広がっていた。その空間には強烈な魔力が渦巻き、二人を圧倒するような威圧感が漂っている。

黒幕が不敵な笑みを浮かべながら、二人に向けて冷たい声を放つ。

「よくぞここまで来たな、鍵の担い手たちよ。だが、お前たちの役目はここで終わりだ。」

イアンが杖を構えながら冷静に黒幕を見据えた。

「剣を利用して何を企んでいる？禁域の封印を解いて何を得るつもりだ？」

黒幕はゆっくりと歩みを進め、広がる魔法陣を指差した。

「禁域には、魔族と人間双方が恐れた力が眠っている。その力を解放し、この剣を完全に覚醒させれば、私は新たな世界を創り出す。」

アリアが剣を構えながら鋭い声を放つ。

「そんなこと、絶対にさせない！この剣は、あんたみたいな人のためのものじゃない！」

黒幕はアリアの言葉を嘲笑うように微笑み、手をかざす。その瞬間、魔法陣が激しく輝き始め、周囲に霧の魔物が次々と召喚された。

「さあ、私を止められるものなら止めてみせるがいい！」

霧の魔物たちが一斉に襲いかかってくる。アリアは剣を握りしめ、力強く踏み込んだ。

「イアン、援護を頼む！」

「分かった！」

イアンが冷気の魔法を放ち、霧の魔物の動きを一時的に封じる。その間にアリアが剣を振り下ろし、核を狙って攻撃を加える。青白い光を放つ剣は霧を切り裂き、次々と魔物を消し去っていった。

だが、黒幕の魔力は強大で、魔物の数は減るどころか次々と増え続ける。

「無限に湧いてくる……！？どうすれば……！」

アリアが息を切らしながら呟くと、イアンが素早く魔法で壁を展開し、彼女を守った。

「奴を直接狙うしかない。魔物を無力化するには、黒幕そのものを叩く必要がある！」

魔法陣の中央に立つ黒幕は、二人の動きを余裕の表情で見つめていた。イアンが杖を握りしめながら冷静に声を上げる。

「お前の力を完全に断つ！」

イアンが放った冷気の槍が黒幕を直撃するが、その体は霧のように形を変え、ダメージを受けることはなかった。

「私に物理的な攻撃が通じると思うな。剣を持つ者だけが、私を斬ることができる。」

黒幕の挑発に、アリアが剣を構え直した。

「だったら、この剣で……！」

アリアが突進し、剣を黒幕に向かって振り下ろす。しかし、その瞬間、黒幕が巨大な霧の壁を展開し、剣の動きを封じた。

「力を覚醒させない限り、お前には私を倒すことはできない。」

黒幕の言葉に反応するかのように、アリアの剣が再び青白い光を放ち始めた。その光が魔法陣に反応し、周囲の空気が震え始める。

「剣が……応えている？」

イアンがその様子を見つめながら、冷静に状況を分析する。

「剣が覚醒しようとしている。だが、そのためには……！」

その時、黒幕が低い声で呟いた。

「そうだ。この剣を完全に覚醒させるには、鍵を持つ者の魂と血が必要なのだ。」

「魂と血……？」

アリアが驚きの声を上げると、黒幕は嘲笑を浮かべながら続けた。

「剣の覚醒には、持ち主の命そのものを代償とする。お前の決意が試されるのだ、鍵の担い手よ！」

アリアは剣を握りしめながら、強烈な光を放つその刃を見つめた。黒幕の言葉が耳に響く。

（私の命を代償にしないと、この剣を完全に覚醒させられない……？でも、覚醒させなきゃ、街を守れない……。）

その葛藤を察したイアンが、アリアの肩に手を置いた。

「アリア、君を犠牲にする必要はない。俺たちで他の方法を探すんだ。」

「でも、イアン……街のみんなを守るには、この剣を覚醒させるしかない……。」

イアンは真剣な表情でアリアを見つめた。

「俺たちは二人だ。君一人が全てを背負う必要なんてない。」

アリアはイアンの言葉に少しだけ目を見開き、やがて力強く頷いた。

「そうだね……ありがとう、イアン。」