魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

24章 平和な日々

③

平和な冒険から帰る途中、アリアとイアンは思わぬ出会いを果たす。街の近くの道端に倒れていたのは、金髪碧眼の上品な雰囲気を纏った明らかな「よその人」。彼との出会いが、新たな波乱を呼び起こしていく。

アリアが輝石の欠片を手にして帰り道を歩いていると、ふと視界の先に道端で倒れている人影を見つけた。

「イアン、あれ……人？」

「……どうやらそうだな。」

二人は慎重に近づき、倒れている人物を確認する。金髪に碧眼、明らかに上等な織物で作られた服装だが、埃と泥で汚れている。呼吸は浅いが命に別状はないようだ。

「ねえ、この光景、なんか見覚えがあるんだけど。」

アリアが首をかしげると、イアンが少しばつが悪そうに呟いた。

「……俺もだ。身に覚えがある、というか……忘れてほしい。」

その言葉に、アリアは彼の過去を思い出し、ふっと笑みを浮かべた。

「懐かしいじゃん。じゃあ、また助けようよ！」

イアンがため息をつきながらも頷き、倒れている男を抱え起こした。


街に連れて帰り、ギルドの一室で彼を介抱すると、しばらくして彼が目を覚ました。その目が開かれると、深い碧色の瞳が二人を見据える。

「……ここは……？」

「ここは街だよ。倒れてたから助けたの。大丈夫？」

アリアの優しい声に、男は少しだけ表情を緩めた。

「ありがとうございます……。私は、セオドリック・ウェインフォード。王都から参りました。」

その名を聞いた瞬間、ユーゴが部屋に入ってきた。彼の目がセオドリックを鋭く見据える。

「ウェインフォード……確か王都の貴族だったな。なぜここにいる？」

セオドリックは少し怯えながらも、ゆっくりと事情を語り始めた。

「王都では今、反乱が起きています。生活に苦しむ平民たちが貴族や王族に不信を募らせ、暴動を起こしました。私は……命からがらここまで逃げてきたのです。」

その話に、アリアは驚きと悲しみを隠せなかった。

「そんな……どうしてそんなことに？」

「貴族や王族の腐敗が原因です。そして私は……反乱に巻き込まれる前に、この街に来ました。ここには、最近魔物を討伐し、人々を救った英雄がいると聞いて……。」

セオドリックの目がアリアに向けられる。

「あなたです。もし、あなたが王都周辺の大きな魔物を討伐してくださるのなら、王都の人々も希望を取り戻せるはずです。」

セオドリックの話を聞いていたイアンは、鋭い目つきで彼を見据えた。

「その話は本当か？英雄を頼るためだけに、命がけでここまで来たとは思えない。」

ユーゴも同じように疑念を抱いていた。

「確かに、反乱と聞けばあり得ない話ではないが……お前自身に何か裏があるのではないか？」

セオドリックは怯えた様子で頭を振った。

「いいえ！私はただ……魔物討伐の力を借りたいだけなのです！」

アリアが二人を見て、少しだけ困ったように口を開いた。

「まあまあ。とにかく、まずは少し休ませてあげようよ。」


その夜、ギルドに再び不穏な気配が訪れる。街の門番からの知らせで駆けつけたアリアとイアンが見たのは、セオドリックを追ってきた討手の姿だった。

「セオドリック様。お逃げになるとは思いませんでした。」

低い声と共に現れたのは、金髪碧眼の絶世の美貌を持つ少年だった。装備からしてただ者ではないことが一目で分かる。彼は冷静に名乗った。

「ルイス・テミス。テミス家直系三男として、セオドリック様を捕らえるために来た。」

「捕らえる……？」

アリアが驚いて問いかけると、ルイスは静かに答えた。

「セオドリック様は、反乱を煽ったとされる罪で追われている。私の任務は、彼を連れ帰ることだ。」

その言葉に、セオドリックは声を上げた。

「違う！私は無実だ！ただ、生き延びるために逃げただけだ！」

ルイスはセオドリックを無視し、鋭い視線をアリアに向けた。

「……面白い。君がこの街の英雄か？」

「英雄ってほどじゃないけど……まあ、魔物を倒してきたのは事実かな。」

アリアが少し照れながら答えると、ルイスは彼女をじっと見つめ、口元に薄く笑みを浮かべた。

「君なら……俺を殺せるかもしれないな。」

その物騒な言葉に、アリアとイアンは一瞬言葉を失った。

「殺す……？なんでそんなこと言うの？」

「俺は、自分を殺すに値する強者を探している。それだけの話だ。」

ルイスは真剣な目でアリアを見据える。その目の中には、歪んだ決意のようなものが宿っていた。