魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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31章 アトリスの廃城

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三人が廃城の門前にたどり着いた時、日差しはすでに傾き始め、辺りは赤い夕日に染まっていた。崩れかけた石造りの城門には、奇妙な魔法陣が刻まれており、そこから漂う魔力が重く空気を圧している。

「これが、ヴァリオスが言っていた『鍵』が必要な場所か。」

イアンが冷静な声で呟く。彼の黒髪が夕日に照らされ、瞳の奥に微かな緊張が浮かんでいた。

「いやな感じだね……入る前から疲れそう。」

アリアが盾を構え直しながら肩をすくめる。その声に、ルイスが苦笑を浮かべた。

「魔物の気配もするな。どうやら歓迎されているらしい。」

その言葉と同時に、門の前の地面が揺れ、黒い影が次々と姿を現した。巨大な石像が魔力を宿し、目を赤く輝かせながら動き出す。

「出た……!」

アリアが剣を抜き、すぐに構えた。魔物――いや、魔法によって動かされた石像たちが三人を取り囲む。

「まずは動きを止める!」

ルイスが叫び、剣を振り上げると、雷光が辺りを一瞬で照らし出した。彼の放った魔力障壁が、石像の進行を防ぎ、攻撃のタイミングをずらす。

「うまくなったじゃない!」

アリアが感心した声を上げながら、石像の一体に間合いを詰め、剣を振り下ろす。一撃でひび割れた石像が揺れるが、すぐに反撃の腕を振りかざした。

「アリア、右!」

イアンの声が響き、彼が氷の槍を放つ。その一撃が石像の腕を粉砕し、アリアを守る。

「ナイス!」

アリアが笑顔で返事をしながら、さらに剣を振るい、石像を倒す。

一方、ルイスはその場に立ち尽くしていた。彼の魔力障壁が完全に敵の攻撃を防いでいるが、その瞳には微かな影が差している。

(俺がここにいる意味は……なんだ?)

「ルイス、まだ考え込んでるの?!」

アリアの声が飛び、ルイスはハッと顔を上げた。目の前には彼に襲いかかろうとする石像がいる。

「……悪い。」

彼は冷静に剣を構え直し、雷光の一閃で石像を一刀両断した。

石像たちを片付けた三人は、廃城の崩れかけた門をくぐり、中へと足を踏み入れる。内部は薄暗く、湿気のこもった空気が肌にまとわりつくようだった。

「なんかさ、廃城って感じがするね。」

アリアが剣を片手に呟くと、イアンが隣で軽く息を吐いた。

「そりゃあ、廃城だからな。」

「いや、そういうことじゃなくて……もっとこう、ゾクゾクする感じ。」

「感想を言う余裕があるのはいいことだな。」

その冷静な返しに、アリアは少し拗ねたような顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。

「でも、ほんとにさ、イアンもルイスも頼りになるよ。ここに来る前なら、一人で無理しようとしちゃってたかも。」

その言葉に、イアンは一瞬だけ黙り込む。彼女の無邪気な笑顔を見て、何かを言いかけたが、結局口を閉じた。

「……お前が無茶をしないなら、それが一番だ。」

「えっ、急にどうしたの?」

「いや、なんでもない。」

イアンがそっけなく言うが、その言葉にはほんの少し優しさが混じっていた。

三人は廃城の奥深くへ進んでいく。古い石造りの壁には、かすかな魔力の痕跡が刻まれており、それが導くように迷宮のような構造を作り出していた。

「この廃城、ただの遺跡じゃないな。」

ルイスが低く呟く。

「迷宮の構造もさることながら、何か……封じられている感じがする。」

「封じられている?」

アリアが首を傾げると、イアンが少し険しい表情で答えた。

「おそらく、ヴァリオスが狙っている『鍵』の本体だろう。この廃城にそれが隠されているのは間違いない。」

その言葉に、三人はさらに奥へ進む決意を新たにする。
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